「手紙、ありがとな。うれしかったで。
ま、ちょーっと、ラブレターっぽかったけど」
「あっ、あれは…
あーゆーののほうが喜ぶんやて、ちょっと大げさに書いてくれ言われてな。
これも一種のファンサービスなんやと」
「ふーん、オレにはようわからんわ」
(でも、マジでラブレターやったらよかったんに。
……ありえるわけないやろけど)
「オレもわからへんけど。
あ、けど書いたことは本当やで。大げさやけど。
でも光一のこと考えて、思て、書いたんや。それだけは誤解せんとってな」
(誰も知らん光一のカオ、1つぐらい知っててもいいやんか。
オレの前では、アイドルやない、本当の光一でいて欲しい。そう思うんは、ワガママやないやろ? 相方やってる特典や…)
「だから、オレの前でも、ちゃんと感情表してな。アイドル装わんでもええねん。
光一がいっちゃん大事や。光一に会えたこと、ホンマにうれしいんや」
(光一に会えんかったら、オレはきっと恋なんてせんかった思うから)
「何かあったらちゃんと言ってな。相談くらいならいくらでものるし。
オレの出来ることならなんでもしたるから」
(言えるわけ、ないやろが…。オレが好きなんはおまえなんやで…!
忘れられへんかった。番組の収録で、1度だけしたキス。
せやけど、剛は……)
「そりゃ、こっちのセリフや。
あの手紙、恋人にやるなら似たような文になるやろ。おまえがオレを思って書いてくれたんはわかるけど、あれはオレを恋人に見立てて書いたんやろ。
でも剛はちゃんと好きな相手、いるんとちゃうんか。
最近、かわいて、キレイになってきとるし」
わざとふざけた口調で言う光一。
言ったことは全て本気ではあったけれど。
「アホか。かわいいとかキレイなんて、男に言う言葉ちゃうわ。女に言ってやり。
たとえば、A.S.A.P.一緒にやった女とか」
(何、自分で自分、追いつめとんのやろ。オレの方がよっぽどアホやな)
胸に小さく痛みが走る。
「そーいや、オレらもデュエットしよ、ゆうたんは剛の方やったよな。
なして?」
「別に。これもファンサービスになるか、思ただけや」
本当は光一と2人きりでデュエットしかたったのだが、番組のプロデューサーに許してもらえなかったのである。
(当たり前やろな。オレら男同士なんやし。デュエットなんて出来るわけあらへんがな。何血迷っとんねやろ、オレ)
でも、あれは剛にとっては、せいいっぱいの愛情表現だったのである。
(ただ、あの曲を歌ってる時に、ふと思た。もし…、もしもやけど恋人同士になれたとしても、きっと歌詞みたいに不安になるんやろな…。って)
そこからは会話が続かず、ただ歩いた。
しばらくして、ふと光一が言葉を漏らした。
「勇気出せ、言われても出せるもんと出せんもんとがあるよな…」
「何のこと?」
しっかり聞いていたのか、剛が問いを投げかける。
「……マンション、帰ったら話すわ…」
光一の胸には小さな決意が現れていた。
2人は喧噪の中、ただマンションに向かって歩き続けた。
「なぁ、光一がさっき言ってたんて、何のこと?」
たった一言なのに、気になって、マンションに着くなり問いかける。
「まあ、どうでもいいやん。そんなこと」
決意はしたが、なかなかそれを実行に移せない。まだ、迷ってしまう。
「教えてくれる、言うたんに…」
「ホンマに、言ってええんか?」
言ってしまっては、もう、お互いに聞こえなかったフリをするわけにはいかなくなるのだ。
「かまへんよ」
僅かに迷ったけど、結局、剛は聞く方を選んだ。
「……………あのな、剛。
オレ、な…」
しかし、そこで言葉を止める。
(ホンマに言ってもええんやろか? この先、今までと同じじゃいられんようになるんやで。
言わへん方が2人の為にええんとちゃうんやろか……)
とにかく、不安で仕方がなかった。受け入れられるとは思えんかったから。
沈黙に耐えかねて、剛が口を開く。
「ええから、はよ言い。
言われかけて止められるんは、なおさら気になるんやで。
どんなことでも聞く言うたやんか。
何があっても、オレは変わらへんから」
「オレ、な………。
剛が好きやっ!」
勢いを付けて言う。そうでもしなければ、言えなかった。
剛はただ、あっけにとられている。
「やっぱ、言わへん方がよかったんやろな…。
けど、もう限界やったんや。何でもないフリして、側におんの…」
「何言うとんねんっ! 言ってよかったんや。これでよかったんや!!」
凄い勢いで反論する剛。
「手紙、ラブレターみたいやったやろ。恋人に宛てたみたいやろ。
当たり前や。オレが好きなんは、光一なんやから」
言い聞かせるように言う。
「ホンマ、か?」
思わず、自分の耳を疑った。
「こないな時に嘘言うて、どないすんねんっ!」
「ま、確かにそやな。
あー、安心したら、一気に眠なってしもた」
確かにそうである。丸1日以上起き続けたのだから。ほとんど精神力で保たせていたのだ。
「オレも、や。
しっかし、ムードも何もあらへんな」
「しゃーないやん。
あ、そや、剛。一緒に寝ぇへん?」
「なっ、何言うとるねん、アホ」
うろたえまくった、剛の顔は真っ赤っかである。
「アホ、て。
言葉通りの意味や。なんかする気力も体力もあるかいな。
ホンマに一緒に寝るだけや」
「そ…れなら、まあ、ええけど……」
そして、2人は幸せな眠りについた。普通の睡眠と違って、かなり長い眠りだったが…。