闇桜
それは、偶然見つけて気に入った桜。
なぜか、満月の下の夜桜が一番映えた。
月の魔性に照らされ、艶やかに咲く。
魔性の…桜。
「珍しいですね。この桜に見入るなんて」
頭上から声がかかる。桜の木に座っていたらしいその男性は軽やかに地へと降り立った。
「…まるで、桜の精みたい…」
ぽつりと呟いた言葉に彼がさもおかしそうに笑う。
「僕が、桜の精?」
「妖しい雰囲気が、漂っていたから。どこか同じ雰囲気が」
慌てて答える。
「まあ、それは仕方ないですよ。
知っていますか? 桜の木の下には死体が埋まっているんですよ?」
まるでこの木に近づけさせないためのような言葉。
「よく言われるわね。でも、実際に埋まっているのはまずないわ」
第一、この桜の木の根元には掘り返した跡など存在しない。
「ここは、埋まっているんですよ。
僕が、殺して埋めたんです。彼女をここに。
だから、この桜は…こんなにも妖しく美しい。血のように、赤い花びらを開かせる。
もっとも…その屍も時の流れと共に風化して…骨まで土に還っているんでしょうけどね…」
独白に近い言葉。
その言葉に反応するかのように、ざあっ、と桜の花びらが舞う。
それは本当に視界が血に染まるかのようだった。
そして…その中に浮かぶ幻想。おそらくは、彼の言う過去。今と同じように狂い咲きした桜の花びらが風に舞っている。
彼の腕に抱かれた、血の気のない白い肌。その瞳は二度と開くことがない。
けれど…あたしは、その瞳の色を知っていた。紅の瞳のはずだ。
彼女の名はリナ=インバース。そして、彼の名は…
「獣神官、ゼロス…」
無意識に声に出し、ぽつりと呟く。
「なぜ、僕の名を…?」
唐突に呟かれた言葉に問いかける。彼にはこの幻影が見えないのだろうか。
「あれは、あたし…だから。
あたしがリナ=インバースの生まれ変わりだから」
幻想を見ながら呟き続ける。
「あなたが、リナさんの…?!」
弾かれたように、こちら側を見るゼロス。
「そうよ。思い出したわ。
だから、あんたに言っとくわ。
あのね、あんたはずっとこの木に縛られたんだろうけど…彼女はあんたのこと、恨んじゃあいなかったわよ。むしろ、命を断った相手があんただってことに納得してた。
あたしは…さすがに今会ったばっかりのあんたのことどう思うようになるかはわかんないけど、これからもよろしくね?」
そう言って手を差し出す。
「僕は…魔族なんですよ?」
困ったように首をかしげるゼロス。
「何今さらのこと言ってるの。そんなの、リナ=インバースの時に、よお〜っく、わかってるわよ」
かすかにまぶした『嫌味』というスパイスは、どの程度効くだろうか。
「それは…そうですね」
それがかけらも効いていないように、差し出された手を取り、握手する。
闇を孕んだ桜のもと、今、何かが解放された。
時期的なものなので…なんとかして頑張って終わらせてみました
俺にしては珍しい終わり方ですが、これで終わりです 続き物じゃあありません
って……裏書庫の続き物のやつ終わってないし…(爆死) 1万ヒット記念のもあるし…前から後回しにしてるのもあるし…(更爆死)
だって忙しくて帰ったら寝るひましかないし、バスや車の中で書いたら酔うし、かといって電車の中じゃあ人目が気になるし、座ってないこと多いし…書く暇ないのよ、マジで
なわけで、更新スローペース もう少ししたら、少しはましになると思うんだけどね… まあ、細々と頑張ります
それでは……