大切なもの、護りたいもの(後編)
 結局、中和剤が出来たのは2日後。
 その後の整備でも異常は無いようだ。
(いくら願いを叶えるっていっても……あんな露骨にパルスにせまるなんて……。
 あれじゃ、『パルスが好きです』って言ってるようなものじゃないか。
 その上、3日も眠らされていたなんて。
 しかもあんなあからさまな罠にはまって、みんなに迷惑かけて。
 ……あんなもの飲まなきゃよかった。
   適わぬ願い。
 わかっていたはずなのに甘い夢を望んだ。
 わかっていたはずなのに……な……)
「あーっ、もうっ。ウジウジしてるなんて性に合わない。
 体、動かしてこようっ!」
「何を叫んでるんだ、シグナル」
「パッ、パルス?!」
(本人がいるなんて……。とりあえず落ち着かなきゃ)
「別に、なんでもないよ。
 3日も寝てたから体、なまっちゃって。
 だからちょっと動かしてこようかな。とか、思って。
 ……ただ、さ、なんでパルスにあんなことしたのかと思って」
「覚えているのか?」
「まあ、ね。
 っとに。せまるんなら、パルスとかじゃなくてエララさんがよかったのになぁ、とか、思ってさ」
(また、だ。どうして、いつもこんなに突っ掛かっちゃうんだろ。
 好きなのに。誰よりも好きなのに……)

「私の方もいい迷惑だったな。
 何が嬉しくてシグナルなんかに」
 表面だけ平気なフリ、嫌なフリ。
 無理矢理作るポーカーフェイス。
 それがどれだけ心に負担をかけるか。
(そのうち回路がショートするな)
 ふと思う。
 本当は辛いのに。
(これがシグナルの本心。わかっているはずなのに。
 せまられた時の心が本心だったら)
 不可能なことを願う。
 狂い始めた考えを宥めるために、その場を立ち去ろうとする。
「パルス、どこ行くんだ?」
「部屋で寝る。何かあった時に私が動けないと大変だろう」
 半分だけの真実。確かに、常に動ける立場にいなくてはならない。
 けれど、眠らなければならないほど、ひどい状態になってはいない。
 戦闘型ロボットが日常生活でそうなることなど、まずないのだ。日課に近くなっているシグナルとのケンカも最近はしてはないから尚更だ。
 下手な言い訳。わかっていてもどうすることもできない。
 欲望が理性を蝕み始めているから。
 このまま側にはいられない。

     ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

「……はあっ……」
 吐く息すらが熱い。
 廃熱効率は悪くないはずなのに体中に熱が籠もっている。
(当然だろうな。闘って発生する熱とはちがう。
 ……平気だと思っていたんだがな……。たった一度のキスが忘れられない。
 シグナルの唇の感触も、その甘さもしっかり覚えている。
 このままじゃ本当にヤバい。
 かといって、今、冬眠状態になってDr.クエーサーが何かしてきたら……。
 結局、この熱は自分で静めないと)
 理性を総動員して、少しずつ欲望の熱を抑えていく。
 それを抑え、感情を落ち着けていると、不意にドアのノック音がした。
「誰だ?」
「ぼく、入っていい?」
(シグナル、か。断れば変に思われるだろうし、仕方ないか。ただ……さっきまでヤバい状態だったしな。
 平気なフリがどれだけできるか……)
「かまわない」
 僅かに躊躇って答える。
(とりあえず、声は落ち着いているようだ。
 このまま心も落ち着いていればいいんだがな)
 シグナルがそっとドアを閉める。
「それで、何か用か?」
 早く話を終わらせて、自分を完全に落ち着けてしまいたかった。
「……その……パルス、昼間のことゴメン。言い過ぎた」
「たいして気には、していない」
 平気なフリで言い返す。
 大丈夫。まだ、落ち着いている。
「それで、用はそれだけか?」
「……っ……。
 それでもっ、ぼくはすごく気になったんだ。パルスに嫌われたくなかった。
 ウソは言わない。っていうか、もうウソなんか言えない。
 些細なことで傷ついて、ちよっとしたことで落ち込んでしまうから。
 もうこれ以上、心を隠していられないんだ」
 何が言いたいのだろうか。
「相談なら私よりカルマの方が適任だと思うが。いや、カルマはいそがしいか。みのるさんの方がよくないか?」
「違うよ、そうじゃない!相談なんかじゃなくて………。
 パルスが好きなんだ。兄弟なんかじゃなくて、特別な意味で……。
 だって、信彦なら大切な弟だからこそ、守りたいし思う。でもパルスは違うんだ。大切だし、護りたいと思う。
 兄弟とは違う!違うんだ!!」
「……シ……グナル……?」
 今、聞いた言葉が信じられなくて聞き返す。
 だが、言葉の前の、一瞬の、切なさと戸惑いの表情が本気を思わせた。
「パルスには迷惑だってことぐらいわかってる。でもパルスが好きなんだ。
 ぼくと対等に強くて、でもいろんなことを知っていて。
 ぼくはパルスにいろんなことを教えてもらった。
 初めて闘った時から気になってた。
 だから……ずっと好きだった。
 多分、初めて闘った時から。
 心が成長して……もう止められないよ……」
(想いを伝えていいのだろうか。
 シグナルは本当に受け止めてくれるのだろうか)
「私も好きだった。
 おまえが信彦をかばった時から。
 ただ、純粋に強いだけじゃなく、そんな強さもあるのだと知った。
 平気なフリをし続けて、そのうちいつか回路がショートするんじゃないかと思ったよ。
 いざとなったら、カルマのように自ら冬眠状態に入るつもりでいた。
 でも、その必要もないんだな。
 もう……迷わなくていいんだな」
『愛してる』
 2人同時に呟いた言葉は空気に溶け、2人の心を満たしてく。
 そっと華奢な体を抱き寄せキスをする。
 2度目のキスは自分から。そんな言葉が頭をよぎる。
 唇を離し、今度は瞼にキスを落とす。
(止まらない)
 そう、思った。
 僅かに戸惑いながらも聞いてみる。
「シグナル、いいか?」

 耳元で囁く声がぼくを煽る。
 あんな声で囁かれて拒めるはずがなかった。
(いや、もちろん拒むつもりなんかないけどさ。
 それにちょっとはそんなつもりでいたし。
 でも……ホントは断られると思ってた。
 だから、すごく嬉しかった。
 そりゃ……ぼくにだって不安はあるけど)
 それでも気持ちは変わらなかった。微かに顔を赤らめて小さく頷く。
「初々しくて、可愛い」
 もう一度唇にキスが降りてくる。
 僅かに唇を開いて舌を絡めあう。
(ぼくってこんなに大胆だったっけ)
 頭の端でふとそんなことを考える。
 長いキスの間に、ぼくはベッドに運ばれて、押し倒されていた。
 溢れ出る唾液を伝ってパルスの唇が降りていく。
 キュッと鎖骨のあたりを吸われる。
 そこには鮮やかなキスマークが残っていた。
 そのまま滑り降りる唇は、ペロリと胸の果実を舐め上げた。たったそれだけなのに体中にゾクリと快感が走る。
「………ふ……あっ……」
 もう片方も、しなやかな指で摘まれて、ぼくは思わず声を上げていた。
「結構、敏感なんだな」
 そう言って、舐めていたそれを軽く噛む。
「……っ……やあっ……」
 2度目の声を上げて気付いた。
(隣の部屋に聞こえるかも)
 そう思い、声を押し殺す。
「隠さなくて、いい。凄く可愛い」
「でも……誰かに気付かれたら……」
「……そうだな。ならばその口からこぼれる声は、私の唇で吸い取ろう」
 その言葉通り、ぼくの唇を塞ぐ。
 胸に触れていた手は下の方に移動し、ぼくの熱の中心を握りしめた。
「……や……だめ……パルス………」
 微かな喘ぎ声も、パルスの言葉通りにその唇に吸い取られる。
「………んうっ……」
 パルスのちょっとした動きで熱は更に煽られる。
 急に口を塞いでいた唇が離れ、思わず戸惑った。しかし、その一瞬後、その舌はとんでもないところに這わされていた。
 そう、ぼくの一番奥の部分に。
「パ……パルス……?!
 そんなとこ……汚いってば……っ……」
「なぜ……?全然汚くなんかない。 キレイだ」
 時折そこに潜り込みながら、襞を一つ一つ丹念に舐めていく。
「……あぁっ……」
(まさか、こんな場所が感じるなんて思ってもいなかった)
 自分で驚いている間にパルスの舌は離れて別のものが潜り込んできた。
 それが2本の指だと気付くまでそう時間はかからなかった。
 慣れない感覚が異物感を伴って、内部を蠢いていた。
 嫌ではないけれど何か変な感じがする。
 そのうち指が3本に増える。
 さすがに少し、無理があった。
「痛……っ……」
 つい顔をしかめてしまう。
 それを聞き咎めてパルスが訊ねてくる。
「大丈夫か?無理な様なら……」
 その言葉を遮って首を振る。
「多分、平気だから」
「健気だな。本当に……。
 ……もう、やめられないぞ……?」
「わかってる」
 そっと呟く。
 内側を掻き回しながら抜き差しされる指の感覚に次第に甘い痺れが体を伝う。
「……パルス……っ。これ以上焦らさないでよ。ぼく、もう限界だよ……っ」
 自分でも信じられないくらい、ひどく甘く濡れた声だった。
 そう言って、自分からキスをする。
 まともな意識でした、初めての自分からのキスだった。
 パルスのものがその部分に当たる。
「力を抜いて、ゆっくり息を吐くんだ」
 微かに強張った体を落ち着かせようと耳元で囁いてくる。
 自分で、出来る限りなるべくそうしようと努力した。
 囁きながらパルス自身が圧迫感を伴って押し入ってくる。
 微かな痛みを無視して、少しずつ息を吐いた。
 それにあわせて繋がりが深くなっていく。
「動いて……いいか……?」
 躊躇いがちにパルスが聞いてくる。
 十分に慣らしてあったせいか、痛みはあまりなかった。
 微かに頷く。
 動きは、最初は少し遠慮がちにゆっくりと、でも少しずつ大胆になっていった。
 気付けば、全ての感覚が快感に変化していった。まるで自分の体じゃないように喘いでいた。
「パルス、早く……っ。お願い……っ……だか……ら……」
「私も……もう、限界だ……」
 自分の内にパルスの想いを受け止めたと同時に、ぼくも自分の想いを放っていた。

「この先……何があっても私がシグナルを護る。おまえという存在を失いたくない……」
「……ぼくも……だよ……。パルスを護る……から……」
 2人だけの心に秘められた想いは暖かく、それを知っているのは、夜空に浮かぶ、星と月だけ。
 そして、静かに夜は更ける。

 はぁぁぁ〜〜……やっと終わった……
 書いてるときはぷっつんしてるからいいんだけど、パソを触ってる間はシラフだからすっごい恥づいです…
 …そりゃ…自分で書いたんだけどさ…… 自分でパソ打ちしてて、逃げたくなりましたよ……
 ってわけで、終わったので逃げます… あー恥づい………
  (裏)