そう、あれからもう50年ほどもたつのだ。
ゼルは、キメラのせいかもしれないけど、未だに元気である。
元に戻る旅を続けているようだ。
アメリアは、セイルーンの女王になりながらも、そのゼルを待ち続けている。
そして、フィリア。
ヴァルも卵からふ化して、しっかり母親状態。
4人で仲良く暮らしているようだ。
そういえば、一騒動あったっけ。
ヴァルが、ヴァルガーヴの頃の記憶を取り戻して……
「ゴールドドラゴンは滅ぶべきだ!!」
そう、叫ぶ。
「…ヴァル…ガーヴ………」
フィリアはそうつぶやいたまま立ちつくしていた。
「落ち着きなさい、ヴァル!
もう、すべては終わったのよ!」
「終わっちゃいない!
おまえらの中で終わっていても、俺の中ではなに1つ終わっちゃいないんだ!!
俺はヴァルじゃない ヴァルガーヴなんだ!」
確かに…ヴァルの中じゃ終わってないのかもしれない。
けれど……こんなのは納得いかない。
「よく考えなさい あなたが記憶を取り戻すことは最初から考えられないことじゃあなかったわ。
それでも……それでもフィリアはあなたを育てたのよ。
わかっていて…
あなたの中で、なにも終わってはいないというのなら、今、終わらせなさい!!」
手に、魔力球をまとわらせたまま、ヴァルは考え込んでいた。
いろいろな葛藤はあっただろう。けれど、
「ふん」
そういって、そっぽを向いて、その場を去っていった。
思いとどまってくれたのだ。
多少ぎくしゃくしているところはあるが、それでもなんとかやっていっているようだった。
そして、ゼロス……
ゼロスには、あれから1度も会っていない。
今、どうしているか…なにも知らない……
――ちなみに余談だが、姉ちゃんは昔の姿のまま、ピンピンしている。
スィーフィードの力なのだろうか…?
またしても姉ちゃんの謎が1つ増えた…
「ゼロス……」
そっと、声に出してつぶやいてみる。
「呼びましたか? リナさん」
そこには、あのときと変わらない姿のままのゼロスが立っていた。
まあ、魔族が年をとったからといって姿が変わるわけはないだろうが。
「ちょっと、ゼロス!
あんた、なんて登場の仕方するのよ!!
ひとの年も考えなさいよね 心臓麻痺で死んだらどうしてくれんのよっ!!」
「リナさん…… それだけ元気なら大丈夫ですよ。
でも、変わってませんね……」
「そうそう変われるものでもないわ。
それにしても…よく、こんないいタイミングで来れたわね……」
自分からゼロスの名前を呼んだので、少々照れ隠しが混ざっている。
「満月、ですからね。ロマンチックでしょう?」
わけのわからない答えで受け答えされる。てっきり、それは秘密です。ってくるかと思ったけど。
「ねぇ、何で魔族はあたしを放っておくの?
あれの呪文を使える、たった1人の人間なのに…」
実はあれ以降、あたしは魔族とは出会ってないのだ。
まあ、トラブルに関わって、下級魔族あたりと戦ったこともあるが、それ以外はなにもないのである。
下級魔族はすでに命令系統がごちゃごちゃしているようで、あまり配下関係はしっかりしていないらしいのだ。
「そう、ですね…
僕もくわしくは知らないんですよ。
でも、どうやら上からの命令があったようなんです。
あなたには手を出すなって」
本当に話したいことはこんなことではないけれど、それでもあたしたちはつもりつもる話を語っていた。
ふう…
かすかに大息をつく。
「あたしも年よね…これだけしゃべっただけで大息をつくなんて……」
わずかにぐちがこぼれる。
ゼロスが全然年をとっていないせいかもしれない。
「リナさん…
…魔族になる気はないんですか……?」
それは、ゼロスにとってはプロポーズでもあったのかもしれない。
「そうね 魔族になればあたしは昔のまんまかもしれない。
だけどね、強さは変わらなくても心が変わってしまうのよ。
心が変わってしまえば、それはもうあたしじゃないわ」
自分の寿命が近いことはリナにはよくわかっていた。
だからゼロスに会いたかったのかもしれない。
そして、ゼロスにもそれはわかっているのだろう。
だからあんな言葉を問いかけた。
「何かあったときは、リナさんの器をもらってもいいですか?」
あえて、死んだときとは言わない。
魂が欲しくても、それはあの方の元へといってしまうから。だから器を…
「勝手にすればいいわ」
月夜の下、ゼロスはリナの部屋を訪れる。
そこには眠っているリナの姿 しかし、それは永遠の眠り。
魂の抜けた、抜け殻にそっと唇を寄せる。
…最初で最後のキス……
そして、そのリナの体を抱えて、空間移動する。
そのときから獣神官ゼロスは存在しなくなった。
そして、誰も知らない場所の結晶の中に20前後の姿の男女が永遠に眠り続ける。
それはまるで1つの絵のようだった。