竜の住む家
「ルビーアイ様っ!」
 嬉しそうな声。子供の声だ。この憎たらしい声は記憶に……記憶?!
 確か俺は滅ぼされたはずだ。あのフィブリゾの陰険な罠にはめられて。
 滅べば記憶は浄化され、全く違うものに転生されるはずだが…どうなってやがる?!
 そうだ。確かに記憶がある。俺は魔竜王(カオスドラゴン)ガーヴ。さっきの声は冥王(ヘルマスター)フィブリゾだし、そのフィブリゾが読んだのは赤眼の魔王(ルビーアイ)シャブラニグドゥ。
「フィブリゾとシャブラニグドゥ?!」
 目を開け、ガバッと体を起こす。
 今、俺の状態がどうなっているかは知らないが、シャブラニグドゥに反旗を翻した以上、天敵の存在だ。
 そして気付く。レイ=マグナス=シャブラニグドゥ、フィブリゾの他にいる、もう1人の少女の姿をしたもの。
 以前見たときとは全く違う、赤い瞳(め)の輝き。
「皮肉なもんだな。リナ=インバース。いや、今はもう1人のシャブラニグドゥか。
 生を望み続ける存在(もの)が滅びを望む存在(もの)に早変わりか。
 まあ、俺も人のこと言えた義理じゃないがな。
 で、今度は何をたくらんでやがる?
 俺は滅んだはずだぜ。何をした?
 え? シャブラニグドゥよぉ!」
 またこいつの手の上ってのは気に入らねぇ。人間ゆえの感情だ。
「まあ、そんなに気を荒くするな、と言っても無理か…
 おまえを…そうだな、人間で言う生前の状態というものに戻しただけだ。黄泉還り、そうとも言うかもしれないな。
 リナ=インバースと対峙しただろう? その気持ちはおまえ自身がよくわかっているだろう。かくいう私にもよくわかるのだ。本当に皮肉なものだな。
 だから…私はおまえに自由をやろう。おまえを追撃する者はもういない。好きに生きるがいい。
 我々とて、滅びを望んではいるが、決め手はない。それに…人間の部分が残っているのか、ゲームのような感覚だしな。滅ぶときは全てを巻き込む。ただし、それまでは楽しんでみようかと思うのだ」
 魔王と人間の危ういバランス。くずれれば自滅の道を歩むだろう。
 シャブラニグドゥですら同類なのかもしれねぇな…
「望むなら、おまえが滅んでいた間のことも教えてやろうか? リナ=インバースの視点ではあるがな。おまえの部下と関わっていた。
 フィブリゾ、こういうものはおまえが得意だろう。私の記憶から見せてやれ」
「はい」
 シャブラニグドゥの威厳に黙っていたらしいフィブリゾが、ヴィジョンを映し出した。
 いい気味だぜ。俺はもう、そんなものには縛られないからな。
 レイ=マグナス=シャブラニグドゥはというと、口を出さず眺めているだけだ。
 そして、そのヴィジョンに見覚えのある顔が写る。
 …そんなことになっていたのか…
 「ありがとよっ」
 そう、言い残し、空間を渡る。
 まさかこいつらに礼を言う日が来るとは思わなかったぜ。

 とある、扉の前に立つ。
 ここはフィリアとか言う黄金竜(ゴールドドラゴン)の生き残りがやっている店の前だ。
 思うままに来ちまったが…さて、どうすればいいもんかな…
 しばらく思い悩んでみたがどうにもならねぇ。元々、俺は考えるのは性に合わねぇんだ。
 そんなわけで、即実行。
 カラン、と鈴の音がする扉を開く。
 とたん、殺気を感じ、剣の鞘ごと、それを受け止める。
 剣でとっさに受け止めたそれは、モーニングスターだった。そしてそのモーニングスターを扱っていたのは、1人の女性。普通の人には扱える者ではないが、竜ならば確かにたやすいだろう。
「きゃあっ! ごめんなさい!! お客様だったんですね。
 嫌な予感がしたものでつい…」
 もしかしたらおっちょこちょいかもしれない。
「まあ、仕方ねぇさ」
 なにしろ、俺は人間が入ってるとはいえ魔族、竜とは天敵である。
「でも、私の店は、骨董と鈍器が中心で剣のたぐいはあまり…
 あなたなら扱えそうですけど…」
「ホントのところ、買い物じゃなくて会いたい奴がいるんだが…」
 そう言って、言葉を濁す。
「なんかでっけぇ音したけど、どうかしたのか?」
 そこに当の本人であるヴァルガーヴが現れる。
「……………………………………………………
 ……………ガーヴ様…………………??」
「元気そうだな。ヴァルガーヴ」
 それは平凡な挨拶で、俺達の立場で言うには似合わなかったが…
「ガーヴ様っ!」
 ヴァルガーヴにはそれが俺だと確認するには十分で、すごい勢いで俺に抱きついてくる。
「俺が滅んでいた間、大変だったらしいな。
 おまえ、よくやったよ」
 そう言って、肩をポンポンと叩く。
「でも、転生したんだろ? よく俺のことがわかったな…」
 俺は転生じゃあなく、黄泉還りだったから記憶があったが、こいつの場合は……
「ほんのついさっきまでは忘れてました。ガーヴ様見たら思い出したんです。
 そういうガーヴ様も、滅んだんじゃなかったんですか?
 そりゃあ…うれしかったですけど、何があったんですか?」
 まあ、疑問に思うのも不思議はない。普通は滅んでしまえば終わりだ。まあ、ヴァルガーヴなんて例外中の例外だしな。………俺もか……
「まあ、話したいところだが、あんまりここで話し込むのもなんだしな。
 急で悪いんだが、俺と来る気はないか? そりゃあ…行くあてがあるわけじゃねぇけどな」
 そう言って苦笑する。
 黄金竜の彼女には悪いことなんだろうが…
「待って下さい。その話、私にも聞かせて下さい!
 ずっと話し込まれるより、何も言われずに去られることの方が困るんです。
 真実にふたをして、何も知らない方が楽かもしれないけど、それでも知らなきゃ行けないんです!」
 そう言って、俺とヴァルガーヴを奥へと引っ張っていく。女とは思えない力である。いや、黄金竜だが……
 そして、香茶の準備を始める。
「あのお嬢さん、フィリアはああなるともう止められませんから…」
 苦笑しながら言うヴァルガーヴ。
「…そうか…」
 俺はポカンとしながらも納得するしかなかった。

 彼女が香茶を並べ、同時に焦らすとグラボスも連れてきた。
「この2人にはなおさら聞く権利があるはずですから」
 そう言って。
 やっぱり、ジラスとグラボスも驚いていた。まあ、仕方のないことだろう。
 そして話し始める。
「俺が1度滅びたのは確かだ。だけど、シャブラニグドゥが復活させたんだ。フィブリゾも一緒にな。わざわざあの方に頼みに行ってまでな。
 じゃあ、なんで滅んでからこんなにたってから復活したかってぇと、それを考えたのが今までのシャブラニグドゥ、レイ=マグナス=シャブラニグドゥじゃなくて、新しく復活したシャブラニグドゥの提案だったからだ。あのシャブラニグドゥ達も少しは人間らしくなっているようだぜ。妙な感傷とか、部下が大事とかぬかすしな。
 新しいシャブラニグドゥの人間の時の名残なんだろ。
 俺も1度戦ったからな。リナ=インバースとは」
「リナさんがっ?!」
 俺の声をさえぎって叫ぶフィリア。
「どうやって復活したかまでは知らんがな。別のシャブラニグドゥが復活して、レイ=マグナス=シャブラニグドゥがカタートから自由になったしな。
 もっとも、そんな簡単に世界を滅ぼすつもりはないみたいたぜ。
 俺の追撃もしねぇって言ってたしな。それで俺もあいつらに敵対する理由はねぇし。
 人間として好きなように生きようと思ったのさ」
 これで言うことは全部言った。どんな反応が返ってくることやら。
「あの……お話はわかりました。
 それで考えたんですが……
 あなた方はここにとどまるつもりはありませんか? 行くあてがないといっていたでしょう?
 私達は皆、お互いに自らの属性を捨てた者同士。
 それに……長い時間を1人で過ごすのはつらいんです。
 泣き言だと思うかもしれません。それでも…
 いつもここにいて欲しいとまでは言いません。旅に出たかったら出てくれてもかまわないんです。でも……ここに帰ってきてほしいんです。
 ………………だめでしょうか………?」
 どこか寂しげに語る。
 確かに今のこいつからヴァルを取り上げるのは酷かもしれない。
「ヴァル、おめえはどうしたい?」
 問いかけてみる。
「オレはガーヴ様と今度こそ平穏にすごしたいです。
 でも、フィリアにはここまで育ててもらった恩もある。それに……さっきの言葉を聞いたら、せめて少しはいてやりたいとも思うんです」
 こういう優しさは以前と全く変わらねぇな…
「ジラス、グラボス、おまえらは?」
 さらに問いかけてみる。
「ヴァルガーヴ様、姐さん、両方とも命の恩人。どちらか選ぶ、できない…」
「オレも…選べないです。
 2人ともいなければ、今のオレはなかったですから…」
 名残惜しそうにしているのはフィリアのおかげってことか?
 1人でいることのつらさは、俺を含めて全員がよくわかっていることだしな。
「じゃあ、決まりだな。俺達は全員ここにとどまる。
 ここまでこいつらを引き留めるものにも興味あるしな。
 最も、俺なんかほとんどブラブラと旅に出てそうだけどな」

 異なる竜が3匹も住む家。
 確かにおもしろいかもしれねぇな…

 終わりましたぁ! これでまたしばらくこのシリーズ凍結かな…(^_^;)
 えー、今回、最初の予定とはかなり異なりました
 ホントは、ガーヴ様、ヴァル様さらってって(冗談だけど…)2人でらぶらぶ幸せな(笑)旅に出る予定でした
 なのにフィリアがヴァルと別れたくないからって主張しちゃって……
 ジラスとグラボスはほとんど置物状態…いるだけになってしまった…(^_^;)
 なんか凍結状態のが増えてますが…書くものがつきた…(爆)
 ま、またいつかね…(^_^;)