4月の織姫、4月の彦星
「あれ? リナさんどこ行っちゃったんでしょうか」
 ふと気付いたようにアメリアが言う。
 確かにここにリナはいない。ガウリイとゼルガディス、そしてアメリアがいるだけである。
「ん? そういや4月1日は決まっていつもいないぞ。去年もそうだった。……はずだ……」
「ガ…ガウリイ……よくおまえそんなこと覚えてたな…。しかも1年も前の…」
「ガウリイさんがきっちり覚えてるなんて…明日はヤリが降るんじゃあ……」
 失礼な2人である。しかし事実でもある。あとから付け足した『はず』というのがまだしもガウリイらしいと言えばガウリイらしいが。
「…悪かったなぁ…。リナのおかげで少しは覚えられるようになったんだよ。
 おまえらと会って、もう何年もたつんだぞ…」
「そう! だからリナさん。どこ行ったんだと思います?」
「あいつのことだ。楽しそうに嘘をついているんじゃないのか?
 今日はエイプリルフールだからな。
 夜だったらいつもの盗賊いぢめだろうが、今は昼だしな」
 それを聞き、はっとしたように顔を上げるアメリア。
「そうですっ。今日はエイプリルフール。嘘の横行する日!
 それはすなわち、悪! 今すぐ成敗しに行かなければっ!!」
 いつものポーズをしっかりと決めてから、アメリアはあわただしそうに駆け出していった。

 さて、そのリナはというと。
 確かに楽しそうではあった。今日がエイプリルフールだから。
 しかし、嘘をつくためではない。ある相手を待っているのだ。
「1年ぶりですね。
 元気でしたか? 我が織姫様」
 おどけた口調とにこやかな笑顔。
 闇をまとい、ふわりと降りてくる。
「見た通りよ。さすがにあんたの外見は変わらないわね、ゼロス。
 元気…って魔族に聞くのも変だけど、どう?」
 微笑んで訊ねる。
「忙しいですけどね。この世界には負が満ちあふれていますから。平気です。
 リナさんは綺麗になりましたね。1年、なんていう時を感じます。
 僕ら魔族にとってはたった1年なんて意味はなくても、人間にとっては大きいものなんですね」
 綺麗だと言われて、顔に血が昇る。誰からも言われなかった言葉。
「じゃあ、そう思うならキスしてくれる?」
 無邪気な問いかけ。
「もちろん」
 リナの体を引き寄せて、唇を重ねる。甘く長いキス。
 そして、そっと唇を離す。
「リナさん、さっき僕のことを心配してくれましたよね。
 ですから…そのお礼を兼ねて、安心できるようなプレゼントをしましょう。
 左手、出してくれますか?」
「なぁに?」
 そう言いながらも、左手を差し出す。
 左手で差し出された手を取り、右手で自分の髪を一本、抜く。
 それはゼロスの手の中で見る間に姿を変え、その漆黒の髪と同じ色をした指環へと変化した。
 そして、その指環をリナの薬指にはめ込む。
「…え…?」
 そう、薬指にはめられた指環。それは……
「これだったら、僕に何かあったらすぐにわかりますよ。
 それは、特別に大事にしている人にあげるものでしょう?」
「…………いいの………?」
「もちろんですよ」
 魔族と人間は相容れないもの。
 だから、嘘の許されるこの日だけ、嘘のふりをして真実を語っていた。
 本来ならば敵同士、逢えた時にあるものはどちらかの死。だから…
 1年に1度だけの逢瀬。織姫と彦星なんてロマンチックにはいかないけれど…
「また、1年後に… これはその誓いです」
 そう言って、リナのまぶたにキスを落とす。
「では……」
 そして、現れたときとは逆に、ふわりと浮き上がり、虚空に消える。
「うん…また1年後にね…」
 そう言って、リナもまたその場を立ち去った。

「…リナ…いくら何でも詐欺はだめだぞ…」
「何が言いたいの? ガウリイ」
 怒りを押し殺した声。
「その指環のことじゃないのか? どこから手に入れてきたんだ?」
「ゼルまで…。…?…そういえばアメリアは? 真っ先に言いそうなのに」
 1人、姿が足りないのに気付き、あたりをよく見回す。
「あれ? そういえばいないな…どこ行ったんだっけ?」
「嘘が横行するから悪を成敗するってどこか行ったようだが、まだ帰ってきていない」
「ああ、そーだそーだ。そうだった。
 そういうことだ。リナ」
 相も変わらずうすらボケのガウリイ。
 あれ? さっきはみょうに記憶力がよかったのに…。
(ここまで書くのに数日書けてるから作者が忘れたと思われる(^_^;))
 まぁ、リナのことだから覚えていたのだろう。(と、いうことにしておこう(^_^;))
「ま、いいか。ほっておけばそのうち帰ってくるわね。
 言っとくけど! この指環はもらったの!!
 だから、何があってもはずさないからね!
 だって…これがあればあいつのことかわかるんだから!!」
 年に1度しか逢えないけれど、そのかわりにこれがある。
 だから、少しだけ強くなろう。
「悪かった。言いすぎたよ」
「すまん、おまえなら勝手にとったとしても盗賊からだな」
 一言多いが、あっさりと謝ってくれたので、少しは機嫌をよくした。
 しかし、けじめはきっちり着けておかなければ。
 どかっっっ!ばき、ぐしゃぁぁぁっっっ!!!
 ストレートから流れるように肘打ちをし、その肘を打ち上げて、あごへと当てる。(…説明的…でもそうしなけりゃわかんないでしょ…)
 言うまでもなく、餌食になったのはガウリイ。
「…リナ〜〜〜〜悪かったって言っただろ〜〜〜〜」
「失礼ね。これはけじめ。これにこりたら…
 このことには口出ししないで!」

 何かあったら気付けるように…
 これは絶対はずさない。
 もしも何かあったならば…
 年に1度の嘘のふり。それをやめてでもあいつのところに行こう。

 嘘のふりをした真実のために。


終わった…
思いっきり季節はずれです  ただなんとなくこういうネタを使いたかったらゼロリナになっちゃって…
しかも、自分で書いておきながら、自分でも砂吐きそうなほど甘いです
みなさん、耐えられましたか…?
…はっ…! よく考えたら終わったわけでもないか…続きが…
でもまあ、安心して下さい。この後は甘々じゃないです
ただ、この後のストーリーの展開が何パターンにも…
これは最初に書きましたが…
全部を1つに取り入れることは絶対に不可能だし、頭の中じゃどのパターンでも続きが展開していってるんで、好みの方に進んでいって下さい(^_^;)

  ゼロス様魔族バージョン、お役所仕事 この後すぐのお話で、ゼロリナじゃなくなります
  S様1/7の復活 魔族の話になっていきます  → 混沌へ向かう道

  こっちはゼロリナです  さすがにこんなに甘くはないと思うけど……どうだろう……?
  これよりも数年後の話になります    → 相反する想いのために

次に読むときに選んで下さい
…まだ出来てないんですけど……(^_^;)
まぁ、がんばります
では、ここまでお読み下さりありがとうございました