人魚姫
「人魚姫って…けなげですよねぇ…」
うっとりとした口調で呟くアメリア。
「リナさんはどう思います?」
――人魚姫なんて大嫌いよ!――
いつか…誰かがう叫んでいた。あれは誰だったろう…
「リナさん?」
問いかけられてふと我に返るリナ。
「あ? ああ、あたしは…人魚姫、嫌いよ。
自分の気持ちも言えずに死んでいく人魚もバカだけど、気付かない王子もバカだわ」
同じ言葉を、その彼女も言っていた。
「確かにけなげではあるけれど、あたしに言わせれば大バカだわ。
バカさ加減じゃあ、いい勝負よね」
あの時、あたしは、彼女の王子に文句を言おうとしてた。
けれどそのことはかなわなくて…。なんでだっけ…?
「リナさん?」
思い悩むあたしに、またしても声をかけるアメリア。
「ちょっとね。今のあたしと同じ様なことを言った人を思いだしたの。
誰だったか覚えてないけど、でも、あの人もあたしもしょせんは人魚姫なのよね…。
死にはしないけど、かなわぬ想いをいだき続ける…。
王子様も気付いてはくれないし」
ため息をついて答えるリナ。
「…世の中、気付いてくれない王子様ってたくさんいますよね……」
やはり寂しそうに答えるアメリア。
恋する乙女達は、強く、そして弱い。
「姉ちゃん、なんで泣いてるの? どっか痛いの?」
――ああ、これは幼いあたしだ――
「…痛いのは…心よ…。大丈夫。心配かけてごめんね。リナ」
――そうだ。あたしはこの時、妻子世で最後の姉ちゃんの涙を見た――
「あたし、その相手、許さないよ。その人どこにいるの?」
「無理よ、リナ。その相手はね、遠くにいるの。とても遠い存在になってしまったのよ…」
――カタート山脈の氷の中。姉ちゃんはそう答えた。
あの頃のあたしにはまだ理解できなかった。それがシャブラニグドゥだということを…――<
――そうだ。あの人魚姫は…姉ちゃんだ!――
そこで目が覚める。
たぶん、あたしは無意識にそれを記憶の底に封じた。
本来触れてはいけない部分だと思ったから…
「…そりゃ…人魚姫にならざるをえないわよね………」
スィーフィード・ナイトとシャブラニグドゥじゃあ…
あの時の姉ちゃんは、あたしには幸せになってほしいと言ったけど……
「姉ちゃんと同じことしてるようじゃあ、無理な話よね……」
愛する相手は…相容れない存在…
「何が無理なんですか? リナさん」
現れた相手はゼロスで…
「深夜に乙女の部屋に無断で入るなぁぁっっ!!」
インバースロイヤルクラッシュっっ!
「で? 何が無理なんですか? リナさん。 らしくないですねぇ」
かけらも効いてない風に続けるゼロス。
まあ、魔族なら当然か…
「秘密。あんたには教えてあげない。あんた魔族だし…
ま、たまにはらしくないあたしも、はかなげでかわいいでしょ?」
勝ち気ないつものあたし。
人魚姫のように弱くはなりたくない。かなわない想いなら、せいぜい相手をひっかきまわしてあげる。
「ええ、思わずキスしたくなりましたゥ」
……ゼロス相手じゃ、ひっかき回されるのがオチかも……(^_^;)
必殺 スリッパアタックっ!!
「冗談はそれぐらいにしておこうね、ゼロス?
今度は神滅斬(ラグナ・ブレード)でやるわよゥ」
あたしの得意技の1つ。顔はにっこり、目が笑ってない。
「……………冗談じゃなかったんですが……」
ぼそりと言うゼロス。
「さっきの、魔族止めたら教えてくれます?」
「…あんたどうやって魔族やめるのよ…
お役所仕事のあんたがやめられるの?
それにあんた、獣王のたった1人の神官でしょ?」
「もちろんリナさんのためなら、不可能を可能にしてあげますよ?」
…っとに…どこまで冗談だかわかんないやつ…
全部冗談かもしれないけど……
なにしろ、全部同じ、にこにこした表情でやるんだもんなぁ…
「ま、そこまで言うんなら教えてあげる。
あんたは人魚姫って知ってる?」
「知ってますよ。なかなか…おいしそうな話ですよね」
……………………………おいしそう??!!
「まあ、ちょっとしんきくさいですけどね…
僕も長生きしてますし、いろいろ知ってます」
……本の中の負の気を喰うつもりなのか…ゼロス…?
「その人魚姫がどうかしましたか?」
「世の中、人魚姫ってたくさんいるのよ。
そして、気付いてくれない王子様もね」
そう言ってからつけたす。
「人魚姫に、ならざるをえない人もいるけどね」
「実は僕も人魚姫だったりします」
笑いながら言うゼロス。
それが…気に障った。
「ふざけないでよ! あんたいつのまに女になったの?! あたしはまじめに話してるのに…っ!!」
「ふざけてませんよ。立場のことを言ってるんです。
かなわぬ想いをかかえるという立場で。
もしかしたら…腹心クラスまでの魔族も、ある意味ではそうかもしれませんね。
あの方に対する…人魚姫」
滅び=あの方に恋い焦がれる魔族。
「そう考えると、魔族もかわいそうな存在に思えちゃうわね」
そう言ってクスリと笑うリナ。
「でも聞かなかったことにするわ。
この先、魔族と敵対して倒せなかったら困るもの」
そうやって笑う姿は、まるで人の心を惑わす魔女のよう。
「愛しい人を守るために、ですか?
恋する乙女は強いですねぇ…」
本当に鈍感な王子様。
「そうでもないわよ。恋して強くなる乙女なんて、両想いぐらいよ。
片想いなら、壊れそうなほどもろいの…」
胸の痛みをかくして言うリナ。
「男でも、そうですよ…。片想いだと、自分でも信じられないくらいもろくなります。
ましてや相手は…気付かない王子よりももっとひどい…知らずのうちとはいえ、心を狂わす魔女…!
あなたのことですよ…リナさん!」
それは思いもよらない一言で…
そしてリナはくすくすと笑い出す。
「すれ違うはずよね。2人とも人魚姫じゃあ…
人魚姫と王子様よりもバカみたいだわ」
「じゃあ……」
ゼロスの顔が希望で輝く。
「もう言わないからね」
赤い顔をそむけるリナ。
「あんたみたいな魔族って…他にいないわよね」
「はぁ?」
「人魚姫にならざるをえない人がね、いたの。
きっと今さらなのかもしれないけどね…。やっぱり相手が魔族で…」
幸せになってほしい人。あたしの…姉ちゃん。
「僕のような魔族の方が…珍しいでしょうね。
僕としても…本当はけっこう魔族なんですけど…まあ、リナさんのために、ね。
高位になればなる程、滅びを願いますし…
そういえば、その方はどうして魔族と知り合ったんですか?」
普通の人間は滅多に魔族と関わりをもたない。
リナとゼロスは…希有なのだ。
「ずっと…昔、神魔戦争よりも前にね。神と魔王がまだ相対しない存在であった頃の頃の話よ」
遠い目で語るリナ。
「はぁ…そうですか」
わけのわからないまま納得をするゼロス。
「僕たちは、ずっと一緒にいましょうね」
そう言ってリナを抱きしめる。
「…ん…」
小さくうなずきかえすリナ。
人魚姫のような悲しみは、もう、いらないから。
終わりましたぁ〜 これ、冬休みはさんだので、書くのに時間かかったんですよねぇ… 合間にいくつか他のも書いてたし(爆)
実はこの小説、書こうかどうしようか悩んだんです 以前、他の人が同じ題でゼロリナで書いてるんですよね 中身と結果が全然違うんだけど… まあ、結局書いちゃいましたけど…
んで、ついでにこれ書いてたら、ルナ(というかスィーフィード)とシャブラニグドゥの話も書きたくなってしまった…ので書きます(爆)
これの番外編だとでも思って下さい