痕跡
 それは、全てが終わり、ソードとイオスが元の体に戻る前の晩。
「イオス、いいか?」
 ソードがイオスの部屋へと訪ねてくる。
「かまいませんよ。
 …こうやっていられるのもこれで最後、ですしね…」
 イオスがソートを部屋へと招き入れる。
「やっと、体を元の持ち主に返すことが出来ますね」
「ああ、やっと元の体に戻れる」
 天使らしい、悪魔らしい言葉。
「ずっと、それを望んでいたのでしょう? ソード」
「当然だぜ。その為に今までやってきたんだからな」
「…………これで、あなたとの決着も…つけられますね……」
 わずかに沈んだ声で言うイオス。
「そう、だな……」
 やはりどこか沈んだ声で答えるソード。
 次に会うときは敵同士。そして、決着をつける時。
「イオス………」
 腕を、イオスの首に絡め、くちづける。
 思わず、その唇をむさぼってしまうイオス。
「……あ、すみません…」
 一瞬後、イオスは唇を離し、謝った。
「謝るなよ…。今の、どういうつもりだったんだ?
 ……オレは…おまえのことが、好きだぜ…?
 おまえは、違うのかよ…?」
 とがめるように問いかけるソード。
「私は…天使です。許されるはずがない。
 ソードのことを……どれほど想っていても…」
 罪を告白するように答えるイオス。
「一応、今は人間同士だぜ?
 こうやっていられるのはこれが最後。つまりは、今夜が最後なんだ。
 だから、いいだろ?」
 イオスの服を脱がせていきながら、もう一度くちづける。深く、深く。
 情欲に濡れた瞳で見つめられ、イオスもその感情にあらがいきれず、その口づけに応えていく。
「最初で最後、今だけ、ですよ?」
 もちろんイオスとて、本心からそう思っているわけではない。
 だが…………それは仕方のないことなのだ。
「…ソード…今だけ、愛させて下さいね…」
 片手でソードを抱きしめ、もう片手でソードの肌をあらわにしていく。
「愛させて、やるよ…」
 くすくす笑いながら答えるソード。
 悪魔の誘惑。
「あなた、淫魔の方が向いている、って言われたことありません?」
 問いかけるイオス。
「ねぇよ、そんなの。
 女は何度も抱いたが、こうやって抱かれるのは初めてだから。自分から、ってぇのはな」
 多少、むくれるソード。
 その唇を塞ぎ、残った短い時間を惜しむように、愛撫を与えていく。
「あっ…ふ…」
 与えられた時間の少なさのせいか、ソードも多少敏感になっているらしい。
「悪魔が肉欲に弱いって、本当だったんですね…」
 くすりと笑い、さらにソードをあおる。
 過敏に反応した部分には、わざわざ赤い痕をつけながら。
「だまってろよ…
 あんま、焦らすな…」
 少し、強く、イオスにしがみつく。
「今、あげますよ。でも、慣らさなきゃ、つらいでしょう?」
 確かにそれはソードにとってつらかった。しかし、また、これ以上じらされるのもつらかった。けれど、イオスはソードを傷つけたくなかったのだ。
 イオスの指が、ソードの中へと潜り込んでいく。
「…っく、う……」
 ソードの声に多少苦しみが混じるが、それも一瞬のこと。それはすぐに甘いあえぎへと変わっていく。
 しばらくそれが繰り返されてから、
「も、いいから…イオス…」
 懇願するように、途切れ途切れの声がイオスに届く。
 その声は、随分と艶を含んでいた。
「ソード…」
 優しく名前を呼びながら、熱くなっているものをソードの中に埋め込んでいく。
「んっ…イオスぅ……」
 甘くかすれたソードの声。強くしがみつかれていることが心地いい。

 夜が明けるまで、その背徳行為は続けられた。
 そして、イオスとソードは…元の体に戻り、それぞれ天界と魔界に還る。



 神無は、体に残る熱を持て余していた。
 それも全て、イオスのせいである。そして、ソードの。

 イオス、あいつ…本当に天使か?
 人の体で、双魔の体、抱いていくなよ…
 あの時、感覚を完全に切り離していたわけじゃなかった。
 ソードの姿が、双魔にしか見えなかった。
 体は、『双魔』を知ってしまった。
 忘れられない。オレは……どうしたらいい?


 そして、双魔も、同じ状態に陥っていた。
 ましてや双魔には、赤い痕がいくつも残っている。

 そりゃあ…イオスさんとソードのさんの気持ちもわからなくはないけど…
 だからって…ぼく達の体、使わなくても…
 ぼくにしたら、あれは神無に抱かれたことになるのに…
 ……この痕…どうしたらいいんだろう……?



「ねぇ、双魔。最近、変じゃない?
 双魔も、神無くんも。
 何か、あったの?」
 七海はこういうところはやけにするどい。
 長年のつきあいのせいだろうか。
「べ、別にけんかしてるわけじゃないよ。
 ただ…ちょっと、いろいろあって気まずいだけで…」
 どう言えばいいかわからず、しどろもどろに答える双魔。
「けんかの心配はあんまりしてないわよ。
 2人とも、昔からけんかしたことなかったしね。
 でも、なんで気まずいの?
 ちゃんと、仲良くしないとだめだよ?」
「うん、そうだね……」
 そんな、簡単なことじゃあないんだけど…と思いながらも、双魔は頷いていた。


「あの、さ、神無。
 イオスさんとソードさんのこと。気にするの、やめようよ。
 今さらのことだし、ぼくらが気にしたって、別に何かあるわけじゃないしさ」
 思い切って神無に話しかける双魔。
「これを、気にするなって…?!」
 神無が双魔の手首をつかみ、引き寄せる。
 シャツの襟を広げ、その下に隠れていた、薄れかけている鎖骨の赤い痕にくちづける。
 唇が離れた痕には、また色濃くなった痕が残った。
「か、かんな…?」
「気にするなって…忘れろって言うのか?!
 あんな…ことを…!」
 怒りに、思わず手加減を忘れ、力一杯双魔をベッドに押し倒す。
「オレは…忘れられないからな!
 双魔のことを、そういう意味で好きだから。
 忘れるなんて、できない」
 そして、答えも聞かないまま、他の赤い痕も付けなおしていく。
「あっ…ん、かんな…」
 双魔からもれる声。
「本当に…弱いところばかりだな」
 多少あきれたように呟く。
「し、かた…ないじゃない。意識は、ソードさんでも…からだ、ぼくの、なんだから…
 それに…かんな、なんだから……仕方、ないよ…」
 わずかに荒い息を整えながら、双魔が答える。
「ぼくだって、そういう意味で神無が好きなんだから…
 仕方、ないじゃない……」
 赤い顔をうつむけながら言う双魔。
 しかし、うつむいた時に自分の体に散っているキスマークが見え、慌てて目をそらす。
「双魔…」
 そらした顔を向き直らせて、濃厚なキスをする神無。
「誰にも、渡さないからな。おまえだけは…
 イオスにも、ソードはいないんだから、触れさせてやらない。
 オレだけの、双魔だ…」
 角度を変えて、何度もくちづける。
「イオスの残した痕なんか、消してやるよ…」
 残っていた痕はもちろん、他の部分にもくちづけていく。
「イオスさんの残した痕って、ある意味、神無が残したんだけどね」
 そう言って笑う双魔。
「全部、付け直す」
 そう言って、指で体の線をなぞり、熱の中心をとらえる。
「あ…はぁっ…」
 吐かれる吐息は熱い。
「双魔だけ、愛してる…」

 重なっていく吐息は濃密で、何よりも熱かった。



 その頃、天界では……
「イオス様、神様のお召しはどういう用件だったのですか?」
 シェキルが問いかけてくる。
「天界からの…追放です」
「イオス様?!」
 驚いたように問い返すシェキル。
「私は、天使として、してはいけない禁を犯しましたから…」
「でも…イオス様はそれをしらなかったんでしょう?!
 私が…神様にとりなしてきます!」
 信じられないように言い返すシェキルをとどめる。
「いいえ。
 私は…知っていたんです。
 知っていて、自ら禁を犯した。
 シェキル、わかっていても、止められないことが存在するんですよ」
 言い聞かせるようにシェキルに言う。
「もう、会えないかもしれませんが…あまり、無理はしないようにするんですよ。
 それでは……」
 そして、イオスは人間界へと降りていった。


 響く、チャイムの音。そして、「すみません」と言う声。
 来客なのは間違いなかった。もっとも、その声に聞き覚えなどなかったが…
「神無、ちょっと離してね。ぼく、出てくるから」
 そっと神無の腕をほどき、双魔が玄関へと走る。
 さすがに仕方ないと思ったらしく、恋人同士のスキンシップを邪魔されたことで多少機嫌は悪かったが、双魔を離したのだ。
「あ、双魔さん。突然で悪いんですが、私をここにおいてもらえないてどしょうか?」
 あてが、なくて……」
 その言葉遣いに、覚えがあった。
「イオスさん…?」
 それを聞き、神無も玄関に行く。
 確かに、それはイオスの、天使の気だった。
 双魔を後ろから抱きしめ、イオスに話しかける神無。
「二度と、双魔には手を出すなよ」
 すごい目つきでにらみつける。
「出しませんよ。ソードはいませんし…
 それに…もう1度抱いたら、本当に忘れられなくなりますから」
 苦笑するイオス。
「ニャッ? イオス…?」
 そこに突然聞こえる、コウモリネコの声。
「えっ?!」
 思わず振り返るイオス。
「………ソード……どうして……?」
 呟かれた、言葉。
「オレも双魔んところに世話になろうとおもってな。コウモリネコもついてきちまった。
 おまえがいるとは、思わなかったけどな…」
「おまえ…サタンのかわりに魔界の王になったんじゃなかったのか?」
 双魔を抱きしめたまま、不機嫌そうな神無の声。
 その態度はどこからどう見ても、2人のことを邪魔者だと主張している。
「別にいいだろ。ああいうのは性に合わねぇんだよ。
 で、面倒だったからその権利は適当に渡してオレは人間界に降りてきたんだ。
 イオスがいるとは、思ってなかったから驚いたけどな…
 そういえば、おまえはなんで人間界に来たんだ…?」
 今さらに気付いたようにソードが問いかける。
 コウモリネコは、おとなしくその様子を見守っている。
「そういや、オレもその理由は聞いてないな」
 さらに神無も問いかける。
「…それが…情けないことなんですが、天界を追放されて……。魔界に天使が住むわけにもいきませんし…人間界に降りてきたんです。でも…人間界のあてといったら、ここしかなくて……」
 しぶしぶ答えるイオス。
 もっとも、天界から追放されたこと自体は後悔していないのだが…
「でも…あなたにあえて、よかったですよ。ソード……」
 そう言って、ふわりと抱きつく。
 ソードは無言で、イオスを抱き返している。
「…に、にゃー……。あちしだけ、1人かにゃ〜〜?」
 むなしそうに呟くコウモリネコ。
「でも、父さんがナナのこと、心配してたよ?
 だから、さ。みんなうちにいていいよ。
 イオスさんとソードさんの気持ち、わからなくもないし…
 いいでしょ? 神無」
 もちろん、双魔にそう言われてダメと言える神無ではない。
「まあ、かまわないさ」
 イオスとソードが一緒にいれば、あまり邪魔もされないかもしれない、という打算もあったようだが…


   神は、このことを予測していたのだろうか…?
   それは、おそらく誰にもわからない……



 終わりました…やっと…(^_^;)
 間に卒業式を挟んだりと、なかなか書けなかったのですが…
 しかも、神無の呪いくらったし(笑) 頭痛がね…(^_^;) ただの風邪かもしれないけど(爆)
 ま、とにかく終わりました
 もっとも……
 俺はコミックで読んでるんで、神なんかまだ出てきてないし、全てが終わった後がああいう状態じゃあないだろうし…と、間違いだらけでしょうが… どうせ、妄想なんて元からそんなもの だから許してやって下さい(笑)
 題名の「痕跡」ってのは、イオスとソードが神無と双魔に残したものってつもりでつけたんですが… イオスとソード、ちゃんと出てきてらぶらぶだったし(笑) 最初は神無と双魔らぶらぶにするだけで終わる予定だったのに、イオスは天界から追放されて、シェキルとしゃべってるし、ソードも魔界捨てて(笑)くるし…しかもコウモリネコ連れて(笑)
 ま、これでだいたい丸くおさまったので、よしとしましょう(爆)
 あと、ソード。「夢と現」の時点では超にぶかったのに…「触発」で襲い受け書いたせいか、今回も大胆だし…まあ、今回のイオスは純白じゃあないけど、まじめだったし…ソードが大胆になるしかなかったんだけど…
 …………これが、このペースで……次のはいったいいつ仕上がるのだろうか……(^_^;)
 それでは、ありがとーございました

  (裏)