ひとり
 郡狼の島にて、一人呟く青年。
「…会いたい…リナさん…」
 熱い吐息と共に吐き出される言葉。
 けれどそれは破滅への行為。
 許されるはずのない想い。
「ゼロス、あなた自分の状態がわかっていて?」
 虚空から現れるゼラス。
「精神状態がボロボロよ。
 このままじゃ、場合によっては中級魔族程度にもやられるかもしれないわ。
 それでも、いいのかしら?」
 少々、責めるような口調で言うゼラス。
 ましてやゼロスは彼女の右腕ともなる存在である。
「……それについては、申し訳なく思っています。
 けれど……自分でどうこうできるようならば、最初からどうにでもしています。自分では、どうにもならないのです…」
 言ってから、そして付け足す。
「彼女を………愛しています」
「まったく…役に立たない部下ね」
 あきれたように言うゼラス。
「何をしても、もう、昔のゼロスには戻れないのね?」
 それは、言外にリナ=インバースを殺すということも含んでいた。
「はい…」
「……じゃあ…おやすみなさい、ゼロス」
 そう言ってゼロスに向けて力を解放する。
 ゼロスは何一つ抵抗せず、滅んだ。

▲ △ ▲ △ ▲

「リナ」
「なぁに? 姉ちゃん」
 ダークスターとの戦いが終わった後、リナは郷里(くに)へと帰ってきていた。
 ガウリイも、今は傭兵でもやっているのではないだろうか。
 リナ、ルナ、2人の存在のため、平穏無事とは言い難いが、普通の暮らしを送っていた。もっとも、ゼフィーリアではそれは日常茶飯事にすぎないらしいが…(ホントに謎だぞ、ゼフィーリア…)
「気を、しっかりもって聞くのよ。
 彼が…滅んだわ」
 それが意味することはたった1つ。
「…………そう……」
 1言、答え、目を伏せる。
 本当に悲しいときは涙もでないというのは本当らしい…
 それは、最上級の悲しみ。誰よりも、愛している相手への…

 それきり、リナからは、いつもの勝ち気と明るい性格が消えた。

▲ △ ▲ △ ▲

「獣神官ゼロス。おまえはなぜこんなところに?」
 どこからか問いかける声。
「…これは…水竜王ラグラディア様。初めまして、というより、お久しぶりです。と言った方がいいのでしょうか?」
 そう、それは水竜王ラグラディア。過去の降魔戦争の折に滅んだ神の分身。
「…私に様をつけるとは、嫌味か…?
 確かにアクアは私の意識の欠片。同調しているところも多い。
 それより…おまえはなぜこんなところにいるのだ?
 おまえほどの魔族、そう簡単に滅ぶまい。リナ=インバースは…まだ元気でいるのだろう?」
 リナ=インバース。彼女のあの性格は、全てのものを惹きつける。
 アクア、ラグラディアとて例外ではなかった。
「いやあ、それがゼラス様に滅ぼされちゃいまして。
 抵抗しなかったということもあるんですけどね」
 そう言ってはっはっはと笑うゼロス。
「リナさんとは会ってないのでわかりませんけど…多分元気でいるんじゃないですか?
 どこかの魔族に殺されたとも聞きませんしね」
 のんきそうに言うゼロス、
「なぜ…リナ=インバースと会わない?
 会いたくはないのか?」
 ラグラディア、アクアはリナの想いに気付いていた。また、この魔族とてそうであると思っていたのだが…
「………そりゃあ、ね。会いたいですよ。
 でも……会えば間違いなく歯止めがきかなくなっちゃいますから」
 そう言って苦笑するゼロス。
 それは、間違いなくゼロスの本音。
「歯止めがきかなくなるから。それだけで彼女と会わなかったと?
 その程度の覚悟もなかったのか…?」
 この魔族の想いは、そんななまやさしいものではなかったはずだ。
「彼女のこと、傷つけちゃうじゃないですか。なにしろ僕は魔族ですし」
「相手のことを思いやって、どこが魔族だというのだ?
 魔族なら魔族らしく、好きなようにすればよかったではないか」
 神族らしくないことを言うラグラディア。それに対し、ゼロスは
「あ、それもそうですねぇ…僕としたことがうかつでしたよ」
などと、のんびりと答えている。
「ひとつだけ、聞く。真実の言葉で答えよ。
 今、リナ=インバースに会いたいか?」
「もちろんです!
 でも…僕は滅びていて不可能ですよ…言うだけ無駄、ですよね……言葉にしちゃうとなおさら会いたくなりますね…」
 せつなげに顔を伏せる。
「私についてこい」
 ゼロスの言葉によって決めようと思っていた行動。これで覚悟がついた。
「おまえはアクアにこう言ったな。
 『1つ、かりが出来てしまいましたね…水竜王』
 そのかりを今、返してもらう」
「…聞いてたんですかぁ…?」
 困ったような顔で言うゼロス。
「とにかく、今だけは私の行動に従うのだ」
 向かう場所は、ただ一つ。

▲ △ ▲ △ ▲

「リナさんや。自分に素直に生きなされと、言ったじゃろう?」
「アクアばあちゃん??!」
「ちょっとヤボ用で一時的に戻ってきただけじゃよ。
 しょせんあたしは滅びた身だからね。
 ご無沙汰してます。スィーフィード様」
 ルナに向かってぺこりと頭を下げる。
「いいえ、私もあなたとあまり変わらないわ。
 私もスィーフィードの一部にすぎないのだから。
 リナに用なの?」
 珍しく居住まいを正している姉ちゃん。
「前に、リナさんに言ったのじゃよ。
 自分に素直に生きなされ、と。
 それを実行していないようじゃからねぇ…ちょっと渇をいれにきたのじゃよ」
「でも…っ! でも、もうあいついないもん!!
 今さら素直になっても…どうにもならないよ!!」
 叫ぶリナ。
「おまえさんらしくないのぉ…
 あたしは素直になれるようにしてあげにきたのじゃよ」
 一度、言葉を区切り、そして付け足す。
「ほら、一番会いたい、彼がやってくるよ。
 自分に素直にの。リナさんや」
 向こうから現れたのは、ゼロス。
「…うそ…だって……滅んだはずなのにどうして……」
 呟くようなリナの言葉。
「そうなんですが…それが、かりを返してくれと無理矢理に復活させられたんですよ。
 間違いなく僕自身ですよ。リナさん」
「おまえさんも素直になりなされ。
 リナさんに会いたいあまり魔族にふさわしくないと滅ぼされ、あたしが問いかけたら一番会いたいのはリナさんじゃと言ったじゃろう?」
 側から補足するアクアばあちゃん。
「あっ、ばらさないで下さいよ。水竜王…」
 照れた顔をしているゼロス。
「それ、ホントなの? ゼロス…」
 まだ夢心地なリナ。
「まあ、滅んでしまってから体裁を取り繕う必要はないですからね。まさかこんな風になるとも思いませんでしたしね」
「…あたしに…会うために…?」
「他の理由なんかありませんよ」
 それを聞いた途端、リナはゼロスの胸に飛び込む。
 それをしっかりと受け止めるゼロス。
「ずっと、待ってたんだから…っ!
 あんたどこにいるかわかんないし、自分から会いに行けないし…!
 どれだけ待たせるのよ!」
 叫びながら、泣きながら言葉を続けるリナ。
 あの、強いリナがこれほどぼろぼろと泣くのは初めてだった。
「責任はとりますから…今度はずっと側にいますから…
 離れません、放しませんから…」
 なだめるように言うゼロス。
 それを横で見ていたアクアは、満足そうに微笑み、その場から消える。再び混沌の海へ、あの方の元へと還ったのだ。

▲ △ ▲ △ ▲

「ゼラス、あれでよかったの
 たった1人の部下を、大切なあのこを連れ戻さなくて」
 ゼラスの水晶玉で一部始終を見ていたゼラス、ダルフィン、そしてグラウシェラー。
「訳に立たない道具ほど必要ないものはない」
 そう言ってつまらなそうにその場から消えるグラウシェラー。
 しかし、そんな彼とて、シェーラという部下を失っている。
 グラウシェラーにとっては役に立っていたシェーラ。その痛手からはまだ完全に立ち直っていない。
「ゼロスは私のこの手で滅ぼしたわ。
 滅んで…復活したあのこは私の部下と言えるかしら?」
 寂しげに微笑むゼラス。
「獣神官ゼロスは滅んだのよ。これからは…あのこはただのゼロスとして生きるわ」
 それはきっと今のゼロスへのはなむけの言葉。
「大丈夫よ。まだ、私達がいるから。
 私達は、いるから…」
 あなたは1人じゃないのよ。
 言葉にならない言葉。けれどそれはちゃんと伝わっているだろう。


 誰も、ひとりで生きるのはつらいから………

なんと、最後の最後まで題名が決まらなかったこの小説(笑)
しかも……ルーズリーフ1ページ分打ち込んだ時点で半分フリーズ 再起動せずに立ち直りましたがそれだけ打ち直し…(/_;)
おりしもそこは、ゼロス様を滅ぼした後だった……ゼロス様ののろいか…?(笑)
そのため、リナちゃんと幸せにしてあげないよっ! と脅しをかけたところ、今度は、復活してリナちゃんとらぶらぶしているあたりに強制終了……
しかし、強制終了はフリーズとは違う 閉じたりせずに、まずはこの部分をコピー 再び立ち上げなおして、貼り付けて続きを打ち込んだ……(笑)
ちょっと大変だったぞ…………(^_^;)
内容ですが、俺はどうも非情に徹しきれないらしく……
グラウシェラー様が……(^_^;) しかも、あの一言、ちょっと某ゲームの妖魔の君…?(謎)
ゼラス様も、最初でゼロス様を滅ぼしたあたりは原作グラウシェラー様のように非情にしようとしたのに……(^_^;)
ちなみにダルフィン様は女のイメージです
いいわけは終わったし…
ここまで読んでくれてありがとうっ!
苦情、感想あればいくらでも(笑)
では、またいつか……