変化
 夜中、ふと目が覚めて下に降りると、神無が帰っていた。
 神無が夜中に帰ってくることには、もう慣れてしまった。
 ただ、そこに並んでいる、空いてしまったものと中身の入っているビールの量は、並の量ではなかった。
「おかえり、神無。いくらなんでも飲み過ぎだよ」
 しかし、神無はちらりと双魔を見ただけで、また飲み始める。
「だから、飲み過ぎだってば」
 やめない神無にあきれ、ビールを取り上げる。神無の限界は知らないが、この量なら限界を越えているだろう。
「……酔えないから、飲んでるんだよ」
 双魔から、再びビールを取り返す。
「嘘ばっかり。おかしいよ」
 それには答えず、
「おまえも飲めよ」
と別のビールを渡す。
「え? うん」
 思わず受け取ってしまい、戸惑う双魔。
 おそるおそる一口飲んで、
「…苦い」
と顔をしかめる。
「そうか?」
 その味にとうの昔に慣れてしまっている神無はそんなことは感じない。

 何もかも違いすぎる双子の兄。どこかでつながりを求めていた。
 だから…酔っていた神無に求められた時、『いいよ』と答えたのだ。

 それ以来、何度か神無に抱かれた。そして……いだいた感情。けれど、確信はなかった。
 だから……………………
「…神無…今晩、いい…?」
 消え入りそうな、か細い声である。これを言うだけでも、双魔はずいぶんと勇気を費やした。
「かまわないが、おまえから誘うのは初めてじゃないのか?」
 神無にそう言われて、くじけそうになるのを必死でこらえ、
「たまには、いいでしょう? それとも、いやなの?」
 そう言って微笑む。
「まさか。いいに決まってるだろ?」
 しかし、その内心では双魔のあでやかな笑みに惑わされそうになっていた。
 もちろん、当の双魔にはその笑みがあでやかだという自覚は全くと言っていいほどないのだが。

 いだいた感情を確信して…わかったことは、自覚してしまえば、つらくなるということだけ。
 関係は変わらないままなのに、心だけが変わってしまった。
 ………抱かれるたびに……せつなくなる。

 そして、それは一体何度目の行為だったか…そっとキスをされ、ふいに双魔の瞳から涙がこぼれる。
「双魔…?」
 いぶかしげに思い、問いかける神無。
「何でもない」
 止めたいのに止まらない涙を、うつむいて必死に拭いながら、双魔が答える。
「何でもないって顔じゃあ、ないだろう?」
 そう言って、顔を上げさせようとする。
「やだ…っ!」
 もちろん双魔は見られないようにと必死で抵抗する。
「言えよ。おまえはいつも、オレに何も言わない。
 初めてオレが抱いた時だって、おまえは…っ!!」
 双魔のその抵抗に、高ぶった感情のままに声を荒げる神無。
 その怒鳴り声に、わずかに顔を上げる。
「どうして、おまえは…何も言ってくれないんだ…?」
 さっきとはうってかわった優しい声。その声に、おずおずと口を開く。
「……………………神無が好きだから。だから……もう、こうんな、やだよぉ…」
「そー…ま…?」
 聞いた言葉が信じられないように呟く神無。
「………きづいちゃったんだから、仕方ないじゃない…もう、どうにもなんないよ…」
 寂しげに言葉をつづる。
 その双魔を強く抱きしめる神無。
「オレも、おまえを想ってる…」
 そっと、囁く声。
「ウソ!」
 その言葉をとっさに否定する。しかし、神無の腕から逃れようとはしない。
「ウソじゃない。そうじゃなきゃ抱かない。想っているから欲しくなった。
 気付いたから、避けようとしてた…」
「うそだよ……だって、神無、何にも言ってくれなかった…」
 弱々しい声で、まだ否定し続ける。
「当たり前、だろう? こんな想いは…おまえには迷惑なだけだと思ったからな。
 言えるはずがない。双子の弟が欲しくてたまらないなんて。
 だから、ごまかした。
 でも…本当は、おまえだけを想ってた」
 唇に、そっと優しいキスが降りてくる。
「神無……」
 今度は抵抗せず、それを受け入れる。
 いつもとは比べものにならないほど優しく触れられる体。
 恋人になってからの初めての行為は、今までの行為に馴染んでしまっていた双魔の体にはつらすぎる。
「神っ、無…ぼく、もう、欲し…っ!」
 焦らされて、懇願する。
 引き寄せられ、体の中で神無を感じる。その熱さに、自らも高まっていく。
 快楽は甘すぎて、おぼれてしまいそうだった。それとも、もう、おぼれてしまっているのか…境目すらもわからない。
「かんな…」
 自分が自分じゃなくなりそうで、必死にしがみつく。
「双魔」
 そのあだやかな声に、どこか安心する。
「…すき…」
 小さく呟いた声に、神無の動きが激しくなっていく。
「ずっと…双魔だけ想ってた」
 言葉と共に、熱いほとばしりを感じ、自分自身も達した。

「…悪かったな…何も言ってやらなくて。つらかっただろう?」
 神無が優しく語りかける。
「きづいちゃってからはね。
 それに…最初、ぼくも拒否しなかったのも悪いし。
 神無のせいだけじゃないよ。いつの間に…こんなに好きになっちゃったのかな?」
 照れながら笑う。

 変化はいつも、見えないところで行われる。


 書き始めてから書き終わるまで随分かかったので、文体ばらばら(^_^;)
 ちなみに文中で神無ビール飲んでますが、似合うと思いません?
 神無はビール ウィスキーも似合うかな? 双魔は飲めないでしょう ソードは日本酒とかウィスキーかな? イオスはワイン  なんとなくそんなイメージ(何故?)
 実はこの小説、とある人の小説読んでて思いつきました(爆) その小説らしき部分はかけらも出てないからわかんないだろうけどね まあ、こんなのが出来た
 書く物が溜まり続けるよぅ…どうしよう(^_^;)

  (裏)