出会い
それはいつも通り、いつもの場所で。時間はだいたい昼過ぎだっただろうか。その日は隣りで露店してい
る人がちょっと出てくると店番を頼まれていた時だった。
目の端で何か動いた気がしてさっとあたりを見回す。違和感があったのは自分の露店のあたり。さっきま
であったものがいくつか消えている。
「このリアさんの露店で万引きを働くとはいい度胸じゃないか!」
しかし、頼まれた店番を放り出すことも出来ない。リアは体を起こしながら「ミケっ!」と叫ぶ。その声
に反応して、「にぃ」と鳴き声がした。リアの頭の上に乗っていた黒猫が飛び上がり、その人物の前へと
立ちふさがる。どうにかしてその横を通り抜けようとするが、ミケがそれをさせない。そうやって一人と
一匹が譲らずにいる間にリアが追いつき、その腕をつかむ。
「さて、どういった了見だい?」
どうやら見ればまだ少年のようだった。少年はそれには答えず、
「こいつ、垂れ猫じゃなかったのかよ。そもそも黒猫なのにミケって…」
などと言っている。
「化け猫といえばミケと相場が決まっている」などと笑いながら答えると、
「…化け猫なのかよ…」
と溜め息をつく少年。
「それよりも、まだあたしの質問に答えてないだろう?なぜこんなことをした?」
「別に悪いことをしたとは思ってないからな。生きてくためなら盗みだって何だってやったってかまわな
い、ってそう育てられたんだからな」
開き直って答える少年にすぱん、と頭をはたく。
「あんたが生きてくために必要だって言うなら、あたしだって生きてくために露店開いたりしてんだ。そ
こらへんちゃんとわかっているのかい?」
言われた少年は少しうつむく。考えたことがなかったのか、わかっててやったのかは判断出来なかった。
しかしその顔を上げたかと思えば
「…じゃあ、どうすればよかったんだよ?物心ついた時から盗賊団で育てられて、他に生きてくすべなん
てなかった。身よりもない人間は働くことすら出来やしない。そんな状況で他にどうすればよかったん
だ!?」
とこっちを睨み付けてくる。
…そりゃあ言われてみればあたしにもなんともいえないことだけど…それでも悪いことは悪いことなわけ
で。それを教えてくれる人がいなかったのはまあ仕方のないことだろう。
リアは少し考えこんでから、
「あんた冒険者にならないかい?」
ともちかける。
「…はぁ?!」
話の脈絡がわからず目を丸くする少年。
「それだけ素早く動けるんだ、ローグとか向いてるんじゃないかい?」
「そりゃ出来るかもしれないけど、それとこれと何の関係があるんだよ?」
どうやら冒険者の知識はあるらしい。
「もし冒険者になるなら、あたしが引き取ってやるよ。そのかわり、稼げるようになったらうちにお金を
入れること。それが条件だ。どうだい?」
少年はわけがわからないという表情をしている。確かに見ず知らずの人間を引き取るなんて普通は考えな
いだろう。けれども…
「こっちにもちゃんとメリットはあるんだよ。あたしはBSはBSでも製造の方。そうなると行ける狩場なん
てたかがしれてる。製造するにも材料の調達だって楽じゃないし金もかかる。その分をあんたに補っても
らおうってわけさ」
一人では大変でも、二人でなら。それは人生における基本だとリアは思っている。
「でも、あんたの思うようにいかないかもしれないぜ?例えば、俺がそこまでいけないとか、稼げるよう
になったら出ていくとか」
皮肉げに嘯く少年。
しかしそんな皮肉に堪えるほどやわくはできてはいない。
「伊達に商人生活長くないからね。先見ぐらいはできるさ。安いうちに買うのは商人の基本。間違ってた
ら間違ってたで、それはいい経験をしたと思って次回に生かせばいい。後悔するなら、何もせずに後悔す
るより、やるだけやって後悔した方が教訓になる。
商人てのはね、転んでもただで起きてたら大きくはなれないんだよ」
それは商人の持論であるとともに、商家で育ってきたリア自身の人生の持論でもある。
「だから、あんたさえよければうちにおいで?見返りを求める方がよっぽど信用できるだろ?」
そういうリアの言い分はもっともで、少年自身もいい加減落ち着く場所が欲しいと思っていたのは事実
で。
「いいよ。そう言ってくれるなら、あんたの好意に甘えさせてもらう」
少年はそう返事した。
「なら話は決まりだね。あんた…そういや、名前は?」
言われて少年はうつむき、少し黙り込んだ。
「…ないと、不便だろ?」
怪訝そうにリアが問い掛ける。
「名前なんて覚えてない。ただ、俺を育ててくれた盗賊団では忍(しのばず)って仮名で呼ばれてた。」
まさか、名前がないとは思ってなかった。確かに自分は幸せに育ったんだろう。
「…もし、あんたが嫌じゃないなら、そのままその名前で呼ぼうか。
あんたは覚えてなくても、もしかしたら本当の名前があるかもしれないし。名前ってのは愛されてた証
だ。それを、消しちまうわけにはいかないだろ。なかったらなかったで、手放さなきゃいけないのがわか
っていたから、未練を残さないためにつけなかったのかもしれない。子供が大事じゃない親なんていな
い。事実は今更わからないけど、そうやって前向きに考えることも重要だよ」
忍はそこまで考えたことはなかった。自分は捨てられたのだと。自分の不幸を振りかざしているつもりは
なかったが、何をしてもこれは生きるために仕方のないことだと思っていた。リアの考え方というもの
は、自分の考え方とは全然違っていて、いろいろなことが新しくやり直せる気がした。
「じゃあ、それでいいよ。これからよろしくな」
そう言って手を差し出す。
「あたしはリアだよ。よろしく、忍」
出された手を握り返す。
そうして、二人の生活が始まる。
今度はリアさんと忍の出会い編。
リアさんの頭の上の垂れ猫は実は化け猫。月城さんちの蘭(リアル友人のプリ)とニブルへ突っ込んで死に戻ったところ何故かついてきて居ついたという設定があったり。
その辺の話…は書くか書かないかわかりませんが(ぇ
ちょっと忍の設定と話が微妙にズレてきてるので細かいところ詰めなきゃいけないかなあと思っていたり…