本音と、建前と
「リア」
いつもの場所で露店をしていて、呼ばれる声にふと顔を上げる。
「ああ、ディシアか」
彼女はお得意様の一人だ。そして、友人でもある。
「今日はどうしたんだい?」
「うん、ちょっとね。終わってからでいいから付き合わない?」
そう言って彼女は酒瓶を持ち上げた。その様子からするに、彼女はもう今日の狩りを終えたということだろう。
まわりを見れば、そろそろ日も沈もうとしている。
「せっかくの機会だし、今日はこれまでにしとこうかな」
そう言って、リアは店を片付け始める。
酒は、好きでもないが嫌いでもない。だが、友人と飲む酒というものはおいしいもので、それを断るほどリアは無粋ではない。それに…
「珍しくない? ディシアからわざわざ誘ってくるなんて」
店を片付けながらリアはディシアに問いかける。
ディシアはその片づけを手伝いながら、少しバツの悪そうな顔をし、それから
「…まー、ちょっとね。いろいろ思うところもあるし、あたしも飲みたい時だってあるし。って……駄目?」
そう言ってリアの方へと向き直る。
そんな顔で見られれば、断ることなんて出来ない。まあ元から断る気もないのだけれど。
「ああもう可愛いねぇ」
そう言いながら、ぎゅっとディシアを抱きしめる。
「………リア」
苦笑しながら、ディシアはリアの腕から抜け出す。
ほどなくして露店の片づけは終わり、ふたりはリアの家へと向かう。
酒場よりは家の方が落ち着けるし、気兼ねがないからだ。
リアの家に行ってみれば、忍はもう帰っていたらしい。
3人で食事をとってから、リアの部屋へと引き上げる。
「忍、あんたはそのうちね」
さすがに未成年に飲ますつもりはないらしく、忍に釘をさすリア。
「あ、心配しなくても、俺もうちょい狩りいってくるつもりだったしさ」
元からそういうつもりだったのか、忍は狩りの準備をしてリアの家を出ていく。ディシアは気になったが、
「あいつは夜目が効くから、夜でも不便しないみたいだよ」
と言ったので、とりあえず納得しておいた。
『気をつけてな』
出ていく忍の後ろ姿に、そう声をかける。
「さて、これで好きなだけ飲めるな」
にっこり笑いながら、酒瓶を数本取り出すリア。どうやら彼女はとことん飲む気でいるらしい。
「好きだね、あんたも」
苦笑しながら、ディシアはそれぞれのグラスへと酒をついでいく。
「そりゃそうでしょ。こういう機会なんてあんまりないんだし、飲める時に飲んどかないとね」
そう言って、ぐいっとまずは一杯飲み干すリア。
「羽目を外す時は、目一杯さ」
ウインクして、笑いかける。
「ま、それもそうか」
それに答えるように、ディシアもくいっと酒を呷る。
交わされる会話は、冒険者らしく狩場の情報交換だったり、その日の稼ぎだったり。
果てはただの雑談まで、次から次へと話題は転がっていく。
つらいことも、苦しいことも、冒険者になればいろいろある。もちろん、楽しいこともある。
選んできた道を後悔したことはない、いやむしろしている暇なんてない。なぜなら、お互いに目標を持っているのだから。
「けど、さ。時々思うんだ」
ふと呟いて、ディシアが俯く。
「何をだい?」
そっとグラスをおいて問い返すリア。
ディシアは少し黙って、何かを求めるように上を見上げながら
「アリステラに、会いたい…」
そっと吐く息にのせて零れる思い。
「会えば、いいんじゃない?」
カラカラとグラスの中の氷をまわしながら、リアが至極真面目に答えた。
「プロンテラにいるのは知ってるんだろ?
プロンテラとイズルードっていう近距離に住んでてよくぞここまですれ違えるものだといっそ感心するほどあんたたちは会ったことがないらしいけど、じゃあ偶然じゃなくてちゃんと会うことを意図すれば、会えないわけじゃないと思うんだけど?」
リアが聞く限り、ディシアとアリステラが会ったのはふたりが村を出たのが最後という。
定位置露店をしているリアを介して、お互いがお互いの安否の確認や贈り物をしていても、二人が直接会ったことは一度もない。
けれど、ディシアは静かに首を振る。
「それじゃあ、駄目なんだ」
と。
リアには納得出来なかった。会いたいなら会えばいい。お互いの気持ちを殺し合ってでも、離ればなれになっている意味はあるのかと。
「そりゃあ、会いたいさ。でも、アリステラだって頑張ってる。
なのに、あたしがこの気持ちに負けてアリステラに会えば、あたしは負けた気がするんだ。
アリステラに、じゃなくて、自分自身にね。
次にアリステラと再会する時は、自分が強くなってからだと決めた。でもあたしはまだその強さに達していない。
きっと、今アリステラに会えば、これ以上頑張れなくなる。だから…」
会うことは出来ないのだと、ディシアがはっきりと告げる。
「それに、クルセイダーは耐え忍ぶもの。甘えてなんていられないさ」
吐いてしまった弱音をうそぶくように、笑ってみせる。
リアが最初にディシアと会ったときは、ディシアはまだノービスで。リアはもう商人へと転職していた。当時アコライトだった冒険者としての先輩でもあり(よく辻支援された)、やはりお得意様である月城 蘭に紹介してレベル上げの手助けをしてもらうように頼んだりもした。そして、リアがブラックスミスになるよりも先に蘭はプリーストに、ディシアはクルセイダーに転職した。職業も目指すものも違うのだから、先に転職されても別段悔しさは感じなかった。自分は自分のやり方で、ゆっくりでも歩き続けているのだから。ただ、その成長の早さには驚かされた。
ディシアが神を信じていないことは知っている。けれど、己の信念に基づき貫き通そうとする様は、まさにクルセイダーの証であるとリアは思う。そうして彼女は、今までのように耐え忍び、いつか立派なクルセイダーになるのだろう、と。
近い未来とも遠い先とも断言は出来ない。けれど、その時こそふたりは会える。
ならば自分は、少しでもそれを手助けしようと思う。
よく似た頑固なふたりのために。約した再会を果たすであろう、その日のために。
久しぶりのROでの話です。
ちなみに最後に出てきた月城 蘭というプリ(アコ)は、リアル友人のキャラです。なにげにお互いの設定で何ヶ所か絡んできます(笑) 人間(キャラ)関係としてのつきあいはちゃっかりありますから(笑)
なんだか書いてるうちにだんだんわけわかんなくなってきて(ブランクのせいもあるかも)文章というか言葉遣いがおかしいところが数カ所…_| ̄|○
あともうひとつ困ったのが、myキャラながら、ディシアさんとリアさんの口調の使い分けがうまく出来てないこと。……普段からRPしてないからこんな時に困るんですね…_| ̄|○
ディシアさんもリアさんも割と豪快なタイプです(多分)で、ディシアさんがちょっとはすっぱな口調、のつもりで書いてました一応…。
最初オチとしてつける予定だった文章を入れてないことが判明。しかし、この雰囲気で今更つけれないという状況に…なのでここで付け加えときます(ぇ
P.S.その頃のアリステラ本人はというと、ちゃっかり非公平支援でお金を稼いでいた。