さしおの池物語
昔といっても、いつのころかわかりませんが、獅子孔の峰に [さしおの池] と呼ばれている大きな池がありました。 周りは雑木に囲まれた静かな所で、そこには満々とたたえられた池の水は青くいまにも吸い込まれそうな澄んだ池でした。
どれくらい深さがあったものやら、測った人もありません、この池には、「主が棲んでいる」 と言われていました。
めったに近つく人もなく、池の主の姿を見た人もいませんでした。
ある日、天気のよい春の日のことです。
白山さんの(白山比盗_社のこと)神主の娘が山へあおもの(山菜)取りに、一人で出かけていきました。 年のころは十八,、九、美しい娘だったということです。 娘は山の中を、あおものを取りながらあちこちと歩き回っているうちに、いつの間にやら さしおの池のふち(そば)まで来てしまいました。 娘は恐ろしくなって、あわてて家へと戻りました。
山から帰ってきた娘を見て、親たちはびっくりしてしまいました。 真っ青な顔をして、手や体にはへびのうろこのようなものが、話し掛けても何も言わない、親たちは心配してなんとか話を聞こうとしました。 「山で何かあったんか???」 たずねても、 娘は答えようとしません、
ただ「何も変わったことなかった!」 と言うだけです。 それでも親はたずねると、娘は小さな声で、一人で さしおの池に行ったことを話しはじめました。
この話は、たちまち村中に広まりました。
村の人たちは、この娘が さしおの池の主に見込まれたに違いないとうわさしました。 このままほうっておいたら娘の命が危ない、何とかしなければと考えた村人たちは、ワラを持ち寄って人形を作り始めました。 背格好は七、八才くらい、そしてその人形の腹の中には抜き身の短刀を包み込んで着物を着せました。 この人形は遠目で見ると、まるで生きた娘のように見えました。
あくる日、この人形を村人たちが大勢でかついで、さしおの池までやってきました。 そして人形を池の中へ投げ込むと、逃げるように帰っていきました。
それから四、五日して村人たちは、さしおの池へ行ってみました。 すると池の真ん中に大きな、へびが浮いていました。 へびの腹からは、人形の中に仕掛けた短刀が突き刺さり、死んでいました。
このへびが死んでからは、娘の顔色は日増しによくなり元気になったということです。
このさしおの池が獅子孔の山のどのあたりにあったものかはっきりしませんが、ただ 石川県林業試験場の上の峰の近くに、大きなすり鉢形になっているところがあって、その一角がぬけて、白山町の「ひとつくりの谷」とよばれているところがあります。この場所が池のあったところではなかろうかといわれています。 「ひとつくりの谷」も人形「ひとがた」をつくって投げ込んだ池の下の谷という解釈もできるわけですが、?
機会があったら調べてみるのも面白いかと思います。
お語し 故 森 克茂 「鶴来町三宮町」
白山 峰と谷の昔話