三階の窓にも届け 幼木の 吾をめがけて手を伸ばしたる 眩しくて ノートを照らすスタンドのつばを伏せたる 午後の四時半 的を得ぬ励ましなれど 吾をなど励ましている人のいとおし 止むる堰の溢るるを待ちて徒に日々を重ねし 雪ぞ降るまじ あれも嫌これも嫌だと逃げ回って やっと手にする一番嫌な自分 嫌が嫌になりかけた僕に エイと胸張る 十重二十重 重ね着したる吾なれど 大事の時はパッと脱ごうか 汚れなき吾子の如き人に 汚らわしき吾がものを言うなり 心をばつくしなど詠むいにしへの秋の心に筆も尽きぬる 高樹悲風多く 立ち枯れたるも倒るること能わず 秋風の頃 うすごろも しととまつわる秋つゆに みくしのふかき夜となるかも 黒髪に添いて滑らす櫛の歯に代わりて吾が手 添えてありたし うつせみの落つる屍を踏み越えて 自転車乗りの進む秋かな 手折られてなお背伸びたし 秋桜の花よ 葉先に朽ちる秋かな 紅葉とて桜花とて散りてこそ 散らぬ吾ばかり誰か惜しまん 秋深み 失くして始む木立にも 残りて枯れる葉なぞあるらむ 背負いたる風の重きに耐えかねて泣きつる松や 岩に根ぞ張る おのれをば蔑みたるは心根に人を蔑む色ぞ見えける はれやかに連なる山のいただきの遥か深空に津波し八雲 一足に詠める歌にも驚きて一歩だにともあはれにて踏めず 暮れ野にて四肢と堕つるも朝には出づ陽を指して立ち往かむかな 部屋の戸を出て心はふれるなり 歌の心は生まれ継ぐもの 吾を待つや 戸の前に寝る彼の猫は いじらしかれど知らぬ振りをす もう少し燃えていたいと思う夜 コンプレックスせめて薪に 独り寝はあまりにつらし 耐えかねて外に寝たなら風が添うかも 人の間に入りて拓かむ 大望に立ち往く今日は門石に座す 降る雪に打ち隠したし つれづれになしつる咎は灰と積もりて 狂おしく吹きやる雪に思いせぬ人などありや 白衣の襲 氷なる襲にて舞う雪の原 君はあやなし 香のみ忘れて 窓映す暮れ葉の山も枯れにけり 秋(とき)や移らむ この部屋にても