後部座席に少女が一人 小さな麦わら帽子に おかっぱ頭 信号待ちの間中 座席に膝をついたまま 後ろを向いて 背もたれの天辺に肘をのせて トランクルームのカバーを机にして 一心に何か大切なことを 書き留めている 鉛筆のお尻には猫のキャップ 時にその小さな手は ノートだか紙切れだかの両端を コシコシと擦っては止め擦っては止め その顔はこの上なく引き締められて きっと人生の一大事に違いない この小さな詩人は 生きることを知っている やがて突然跳ね上がって前を向き 運転席の父親に向かって 自信作を見せている 果たして彼女は初めての 人生の試練を知ることになるのだろうか 信号は青に変わり 小さな詩人は前を向いたままだ