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「応援歌」


ある日道を歩いていたら
何もかもが消えていた
昨日までの自分と
それを支えていたもの達が
こんなにあっけなく
崩れ去ったこと
それすらも気付かぬままに
僕は生きていたんだね

僕を生んでくれた人
僕を育ててくれた街
僕と一緒に暮らした犬
僕と一緒に遊んだボール
僕の兄妹 僕の先生
僕の友達 僕の恋人
僕の言葉 僕の歌
僕の呼吸 僕の心
みんなみんな僕に裏切られ
そして僕を裏切っていった

思い出は僕を締め付け
優しさは僕を疑う
僕への評価は失望に変わり
僕への視線は絶望を誘う
笑顔は僕を置き去りにして
涙すら失われたままだ
人の足音に怯え
鏡に映る自分を嫌い
誰も受け入れられず
僕はこの部屋に籠もった

このカプセルの中で
ただボーっとして
電気は全部消して
布団に潜り込んで
チャイムの音に震え
友達の呼び声に耳を閉ざし
たまにつけるTVも
音が怖くて消した

布団の中にいても
朝が来て夜になる
雨の音よりも
雷が好きだった
いつの間にか眠って
TELの音で起きた
留守電の瞬きだけが
まだ生きてることを知らせた

布団の温もりを知ると
惰性に抗えなくなる
やがて同じ夢ばかりを
繰り返しはじめる
怠惰と戦う心さえ
遠くの方に霞んで
人間じゃなくなっていく自分を
どうしようもなく見つめた

それでも僕の4本の足は
時々ビクッと痙攣して
人間でありたいと思う心が
寝返りを打たせる
布団の中にいても
やっぱり腹は減るよ
だから3日に一度は
コンビニへ行った
その時だけは髪も洗って
髭も剃って行くんだ

そして半年が過ぎ
僕は空っぽのまんま
寝返りを打ち
時々飯を食った
季節は4つ目を迎え
チャイムも鳴らなくなったけど
ただ毎日
友達のメモが入った

負けないで
負けないで
たった一言繰り返すだけの
そのメモがあるから
僕は時々笑えた
でも涙は出ない
いつしか僕は
こいつのために泣きたいと思った
こんな僕の中にさえ
決して死なない熱情がある

冬のある日
雪の降り出す1日前
どうしてかわからないけど
僕は自転車に乗った
ぐんぐんスピードを上げて
街を駆け抜けていく
時々振り返って
誰も見ていないのを確かめながら
冷たい空気を吸い込むと
もう少しだとわかった

たったひとつの言葉
たったひとつの出会い
たったひとつの温もり
たったひとつの季節
空っぽの僕の中に
新しいもの達が流れ込んできて
そして以前とそれほど変わらない
新しい僕が生まれた

未だに笑うのが下手で
未だに涙を流すのに苦労する
ただありがとうという言葉と
恩の意味を知った
この世に生まれたこと
死なずに生きてること
たったそれだけのことの
尊さを感じた

今悩んでる君に出会って
今苦しんでるあなたを知って
その君の悲しみが
そのあなたの歌が
孤独という言葉を
葬り去ってくれる
悩んでるからこそ
苦しんでるからこそ
いつか新しく生まれ
わかり合うことができる

だから僕は歌うんだ
負けないで
負けないで
負けないで
どんな悲しみも
どんな辛さも
いつかみんなの心の中に
温もりの火を灯すから
ほら 君のそんな姿が
僕の涙をあふれさせる

力尽きてうつむくだけの
今はそんな君でいい
心配しないで
ゆっくりでいいよ
だけどこれだけは忘れないで
たとえ僕が死んだって
きっと誰かが歌ってる
負けないで
負けないで
負けないで

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