平成9年度後期アルコール・セミナーたより(No.5) 

(平成10年2月20日)



 3月に入り、風も暖かくなり、少しずつ春らしくなってきましたが、いかがお過ごしでしょうか。
 さて、平成10年2月20日に平成9年度後期アルコール・セミナ−第5回めが行われました。今回は、「酒のない生活に向かって−家族ができること−」と題して、城南病院の藍田医療ソーシャルワーカーに講演をしていただきました。その内容について紹介します。
「 世 話 や き 」 を や め よ う 
 −あなたのがんばりが飲酒のために利用されている−
 まず、あなた自身を変えよう、行動を変えれば考え方も変わる
 ≧≧≧≧≧≧≧≧≧≧≧≧≧≧≧≧≧≧≧≧≧≧≧≧≧≧≧≧≧≧≧≧≧≧≧≧≧=@アルコール・セミナ−や、断酒会、AA、アラノンなど自助グループに参加する
おしゃれを楽しむ。
なんでも話せる友人をつくる。
家事の手をぬく。自分の時間をもつ。趣味をもつ。
「間」をあける。
本音をやわらかく話す。
「私」を主語にして話す。「私は〜だと思うよ」
気のすすまないことはやらない。
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  (子供を利用してお酒を止めさせるのではなく、子供自身が、回復してほしいという気持ちで考える)
 ー   断 酒 の チ ャ ン ス を つ か も う
 ★「底つき」は早くするには…夫(妻)につくさない[悪妻(夫)になる]
 ★自信を持つ。(家族、世間にいろいろ言われても)
 ★病気としての理解を深める。「病気が言わせていること」「病気がさせている行動」
   飲んでいる人が『加害者』で家族が『被害者』ではない。
 ★説得のチャンスの時期
  次の一杯を飲むまでのしらふの時間
  自責の念にかられているとき
  家族が心から、落ち着いて話ができるとき
  回復を願い、信じているとき
 ★覚悟を決める…暴言やおどしには屈しない
  一時的に事態の悪化はあるが、同じ手は使われなくなる
  ある意味では『闘い』(家族が避難できる場所を準備しておく)
 ★味方(親戚、職場の上司、内科の医師など本人が一目おく人)を作る
 ★上手な説得の方法
  }依存症者を厄介者として排除する気持ちを持たない
  }依存症者の回復したいという気持ちを信じる
  }否認をつきくずす「事実」を準備する
  }感情的、攻撃的、批判的にならない
  }専門的援助の必要性を伝える
  }精神科受診への抵抗を取り除く
  }本人の決断を喜ぶ気持ちを伝える
 ★入院治療の必要な時
 ★説得の準備はOK?
  カ夫が病気なんだ、治療が必要なんだという理解ができたか   カ家族も変わる必要性を理解できたか?  ア   断 酒 が 始 ま っ た と き に 知 っ て お く こ と
回復に付き合うこつ     煤@飲まない生活の工夫を  煤@飲みたくなった時 ■期待はおさえる      煤@■抗酒剤の服用     煤@■休憩をとる ■問題解決は一歩ずつ    煤@■自助グループ     煤@■電話作戦 ■口論にのらない      煤@■通院の継続      煤@■満腹作戦 ■急激な変化は避ける    煤@■断酒宣言       煤@■初心にかえる ■あたたかく言葉をかける  煤@■酒席に注意      煤@■怒りを発散する ■家庭内の役割を返していく 煤@■生活パターンを変える 煤@■感謝する  ■あせらずゆっくり     煤@            煤@■誇りをもつ ■専門家の指示に従う    煤@            煤@■一日断酒の気持ち 飲んでしまった時の対処 「飲んでしまったからだめ」ではなくもう一度、やり直そうという気持ちに!  イ   夫 婦 の 生 き 方 を 見 直 そ う
◆夫婦で一緒に回復しよう
  不正直な関係 F正直な関係
  不信感のうづまく関係 F信頼しあう関係
  軽蔑しあう関係 F尊敬しあう関係
  支配しあう関係 F対等な関係
  拒絶しあう関係 F受け入れあう関係
◆行動をおこす前にちょっと間をおこう
 「〜しなければいけない」ではなく「〜しよう」
◆依存症者は真面目人間−もともと真面目にお酒を飲んだ人のめり込みから抜け出すには
   ■適切に仕事をしよう
   ■遊びを大切にしよう
   ■自分を大切にしよう
  ゆっくり歩き、ゆっくり話し、ゆっくり食べる。
  入浴、マッサージ、軽い体操などで心身の疲れをほぐし、十分睡眠をとる。
  自分のための時間をとり、その間は仕事のことや家族のことを考えないようにしよ  う。
  自分の心を豊かにするための読書をしよう。
  「明日」よりも「今日」のことを考えよう。
  今一緒にいる人の言葉に耳をかたむけよう。
  愛する人や友人の目をしっかりみつめてみよう。
  自分のいいところを探して、それを自分に語りかけよう。
  自分の成功だけでなく、家族や同僚の成功も自分のこととして誇りにしよう
   そうやって、少しずつ自分を変える
    「完全な家族」「理想の家族」などというものはありません。
     どんな家族でも、何らかの問題をもっているものです。
     夫婦はそれを乗り越えることで愛情を育て、子供はそれを乗り越えることで大きくなります。大事なのは問題が起こったときに家族が話し合って解決する能力があること、そこで育つ子供が「自分の問題を解決する能力を身につけること」です。
             ※猪野亜郎著「あなたが変わる家族が変わる」より抜粋
アルコール・セミナ−に関するご意見、ご要望をお待ちしております。
お問い合わせ先:
〒939−8588
 富山市蜷川459−1
 富山市保健所保健予防課(0764−28−1152)
(担当:杉本、宮崎まで)
(文責:杉本留美)










アルコール・セミナ−たよりに関するご意見、ご希望をお聞かせください。  お問い合わせ先 〒939−8588 富山市蜷川459−1          富山市保健所保健予防課 ■(0764)28−1152                           (担当:杉本、宮崎まで)
 実  習 
 “アルコール依存症者のいる家族のポーズ(彫像のように)をつくる”をテーマに、 参加者(元飲酒者、元飲酒者の家族)の中で代表して7人の方に登場人物になって、 それぞれのポーズを自分の役割なりに考えて、つくっていただきました。
登場人物
父(依存症者:40歳)、母(35歳)、祖父(65歳)、祖母(60歳)
長男(高校生)、次男(中学生)、長女(小学生)
第1の場面
お酒の問題を考える前の幸せな家族の姿
父と母は、仲良くテレビを見たり、祖父母は一緒にお茶を飲んでくつろいでいる。
子供たちは、自室で考え事をしたり、読書をしたり、塾にいったり、それぞれ自分のことをしている。
第2の場面
父が、お酒を飲み続けている時の家族の姿
父 :「酒を飲まなければよかった」とうなだれている。
母 :父に対し背を向け、怒っている。
祖母:母に向かって「自分の子が迷惑をかけてごめんね」と詫びている。
祖父:「困った奴だ」と腕組みをしている。
子供たち:「このままどうなるんだろう」と不安に思ったり、家を出てできるだけ帰らないようにしたり、怖くて隠れたりしているなど、家族がばらばらの状態。
第3の場面
父がアルコール依存症の治療のために入院し、3か月後、退院して家に戻ってきた日の家族の姿
父 :「お茶を飲みたい」とリラックスした様子で母に話しかけ、幸せを実感している。
母 :父に対して、不安を感じながらも「はい」とお茶を出す。
祖父母:本当に良くなったのかと半信半疑で父をみつめる。
子供たち:父が帰ってきたことで、一応、一安心はするものの、大丈夫かと 不安であったり、飲まないで頑張ってほしいという期待をかけたり、父に向かって甘えたいけれど甘えられないという戸惑いの気持ちがあったり、複雑な気持ちがある。
という家族の3つの場面のポーズをしてもらいました。
登場人物になった方は、それぞれの登場人物の気持ちを想定するのが難しくて、苦労しておられました。また、見ていた他の参加者の方は、自分の場合のことを振り返り、そのとき自分は何をしていたのか、家族はどのように考えていたのかを考える機会になったようです。
登場人物になった方の感想
・家に帰ってどうしてすんなりと家族が受け入れられたのか自分で想像しても分からない。
・退院後、どのように家族が受け入れるのか分からなかった。
・「自分の子が迷惑をかけて…」と親の血を引いているという言葉はつらかった。
・とにかく難しかった。
見ていた方の感想
・退院して帰ってきた後、子供が寄り添ってきたので意外だった。(近づかないと思っていた)
・子供の親に対する態度は飲んでいる時と、飲んでいない時の差が激しかった。
・飲んでいた時、子供は部活動に励んだり、外出したりなどできるだけ家にいないようにしていたようである。
・夫が仕事が休みの時にはいつも飲んでいるので自分は仕事の休みをとらないようにして、顔を合わせないようにしていた。
等の感想がありました。

 現実には、飲酒していた人は飲んでいる人の気持ちは分かり、家族は家族の気持ちが理解できますが、自分の立場以外の人の気持ちというのは分かりにくく、また、考える機会もなかなかないのかも知れません。
 今回、いろいろな場面で立場を変えて態度で示すというのは、お互いが自分のことや相手のことを改めて考えてみるということや、どうしてそのような態度を取れるようになったのかという経過を考えてみる一つのきっかけになったのではないでしょうか。
 登場人物になって下さった方、ご苦労さまでした。
(文責:杉本留美)










(1)アルコ−ル依存症の対象
 アルコ−ル依存症者・家族・会社関係者・地域の関係者など
 次のようなアルコール依存症者を起点としたシステムの障害として対処
  @個人の飲酒問題→依存・乱用
  A下位システム(例.体)の歪み→アルコール性肝炎、多発性神経炎
  B上位システム(例.家族・職場)の歪み→喧嘩・離婚・解雇・交通事故

(2)治療を妨げる因子とは

個人レベル

家族レベル

社会レベル

(3)治療を行うに際しての基本事項
  ■節酒ではだめ、断酒継続が必要
   1.節酒できている人もいるが、不安定で連続飲酒発作に陥りやすい
   2.節酒するより断酒する方がやさしい
   3.アルコールによる身体障害に対して断酒の方が生命予後が良い
   4.アルコール依存への洞察は断酒の中で獲得できるものである
   5.断酒は治療の目標であり、リハビリテーションの手段でもある
  ■治療への動機づけ
   1.自らが主体的に治療に取り組むという力が必要
   2.治療への動機づけは一定ではなく、強まったり、弱まったりする
   3.いつも動機づけを再確認する機会を持つ必要性

(4)集団精神療法について
   1.コミュニケーション技術の獲得
   2.アルコール関連問題への洞察や否認機制がかかりにくい
   3.治療共同体ができやすく、治療動機が増す
   4.孤独や寂しさからの解放
   5.病気の理解や病識の獲得がしやすい
   6.自助グループ参加への抵抗感の減少
   7.再発予防
   8.回復や新生の新の意味が見つけやすい

 キーワード 
アルコール依存症は慢性疾患なので、新生(回復)には時間が必要
治療の初めはアルコール依存症本人から入りにくい
治療の前提は、断酒継続
すぐに分かった気にならず、治療や自助組織参加の継続
治療は、行動パターンに焦点を絞ると効果的
身体治療は個人・集団・家族療法の土台
退院は治療の始まり
外来治療は、病気の理解と自助組織の参加が早道

 今月のアルコール・セミナ−はいかがだったでしょうか。
 アルコール依存症の治療は、一般には意志の問題と考えられており、なかなか治療 に結び付くことが難しいということが多くありますが、まず、行動すること。
 飲酒者本人が動くことが難しければ、まずは周囲の人から、行動することで、事態 は変わっていきます。
 アルコール・セミナ−がそのきっかけの一つになることを願っています。