平成9年度後期アルコール・セミナーたより(No.3) 

(平成9年12月19日)



 明けましておめでとうございます。
 昨年は何かと、暗いニュースが続きましたが、今年は気分も新たに何かいいことがあればと思っています。
 さて、平成9年12月19日に平成9年度後期アルコール・セミナ−第3回めが行われました。『飲酒中の心理について−依存症者と家族−』をテーマに富山市民病院臨床心理士、山野先生に実習と講演していただきました。その内容についてご紹介します。
 実  習 
 “アルコール依存症者のいる家族のポーズ(彫像のように)をつくる”をテーマに、 参加者(元飲酒者、元飲酒者の家族)の中で代表して7人の方に登場人物になって、 それぞれのポーズを自分の役割なりに考えて、つくっていただきました。
登場人物
父(依存症者:40歳)、母(35歳)、祖父(65歳)、祖母(60歳)
長男(高校生)、次男(中学生)、長女(小学生)
第1の場面
お酒の問題を考える前の幸せな家族の姿
父と母は、仲良くテレビを見たり、祖父母は一緒にお茶を飲んでくつろいでいる。
子供たちは、自室で考え事をしたり、読書をしたり、塾にいったり、それぞれ自分のことをしている。
第2の場面
父が、お酒を飲み続けている時の家族の姿
父 :「酒を飲まなければよかった」とうなだれている。
母 :父に対し背を向け、怒っている。
祖母:母に向かって「自分の子が迷惑をかけてごめんね」と詫びている。
祖父:「困った奴だ」と腕組みをしている。
子供たち:「このままどうなるんだろう」と不安に思ったり、家を出てできるだけ帰らないようにしたり、怖くて隠れたりしているなど、家族がばらばらの状態。
第3の場面
父がアルコール依存症の治療のために入院し、3か月後、退院して家に戻ってきた日の家族の姿
父 :「お茶を飲みたい」とリラックスした様子で母に話しかけ、幸せを実感している。
母 :父に対して、不安を感じながらも「はい」とお茶を出す。
祖父母:本当に良くなったのかと半信半疑で父をみつめる。
子供たち:父が帰ってきたことで、一応、一安心はするものの、大丈夫かと 不安であったり、飲まないで頑張ってほしいという期待をかけたり、父に向かって甘えたいけれど甘えられないという戸惑いの気持ちがあったり、複雑な気持ちがある。
という家族の3つの場面のポーズをしてもらいました。
登場人物になった方は、それぞれの登場人物の気持ちを想定するのが難しくて、苦労しておられました。また、見ていた他の参加者の方は、自分の場合のことを振り返り、そのとき自分は何をしていたのか、家族はどのように考えていたのかを考える機会になったようです。
登場人物になった方の感想
・家に帰ってどうしてすんなりと家族が受け入れられたのか自分で想像しても分からない。
・退院後、どのように家族が受け入れるのか分からなかった。
・「自分の子が迷惑をかけて…」と親の血を引いているという言葉はつらかった。
・とにかく難しかった。
見ていた方の感想
・退院して帰ってきた後、子供が寄り添ってきたので意外だった。(近づかないと思っていた)
・子供の親に対する態度は飲んでいる時と、飲んでいない時の差が激しかった。
・飲んでいた時、子供は部活動に励んだり、外出したりなどできるだけ家にいないようにしていたようである。
・夫が仕事が休みの時にはいつも飲んでいるので自分は仕事の休みをとらないようにして、顔を合わせないようにしていた。
等の感想がありました。

 現実には、飲酒していた人は飲んでいる人の気持ちは分かり、家族は家族の気持ちが理解できますが、自分の立場以外の人の気持ちというのは分かりにくく、また、考える機会もなかなかないのかも知れません。
 今回、いろいろな場面で立場を変えて態度で示すというのは、お互いが自分のことや相手のことを改めて考えてみるということや、どうしてそのような態度を取れるようになったのかという経過を考えてみる一つのきっかけになったのではないでしょうか。
 登場人物になって下さった方、ご苦労さまでした。
(文責:杉本留美)