平成9年度後期アルコール・セミナーたより(No.2) 

(平成9年11月21日)



 12月に入ったとたんに、雪が降り積もり、いよいよ冬本番と感じられましたが、次第に暖かくなり、少し拍子抜けしてしまった気もしますが、皆さんいかがお過ごしですか?
 さて、11月21日に平成9年度後期アルコール・セミナ−第2回めが行われました。『アルコール依存症の治療』をテーマに富山市民病院吉本先生に講演をしていただきました。ではその内容についてご紹介します。
(1)アルコ−ル依存症の対象
 アルコ−ル依存症者・家族・会社関係者・地域の関係者など
 次のようなアルコール依存症者を起点としたシステムの障害として対処
  @個人の飲酒問題→依存・乱用
  A下位システム(例.体)の歪み→アルコール性肝炎、多発性神経炎
  B上位システム(例.家族・職場)の歪み→喧嘩・離婚・解雇・交通事故

(2)治療を妨げる因子とは

個人レベル

  • 病気に対する否認(大酒のみだが、病気ではない)
  • 病気についての知識が不十分(意思が弱いから酒を止められないという誤解) 
  • 治療への恐怖
  • ぼ−っとして状況理解が不十分(意識障害、コルサコフ、痴呆)→頭がしっかりしていないと治療がすすまない

家族レベル

  • 病気への否認
  • 病気についての知識が不十分(意思が弱いから酒を止められないという誤解)→意思だけの問題ではなく、病気なんだという理解が必要。病院へ行く、自助グループへ行くというのは意思と関係するが、一杯飲んだ後は意思は働かない病気。
  • 家族が果たしているアルコール依存症悪化への役割の否認→愛情があっても抱え込みすぎては自立できない
  • 家族も治療の対象であることに対する抵抗

社会レベル

  • 飲酒に対する寛容さ(問題指摘が遅れる)
  • 病気についての知識が不十分→アルコール依存症とは特別なものというイメージがある
  • 社会が果たしているアルコール依存症への役割の認識のなさ
(3)治療を行うに際しての基本事項
  ■節酒ではだめ、断酒継続が必要
   1.節酒できている人もいるが、不安定で連続飲酒発作に陥りやすい
   2.節酒するより断酒する方がやさしい
   3.アルコールによる身体障害に対して断酒の方が生命予後が良い
   4.アルコール依存への洞察は断酒の中で獲得できるものである
   5.断酒は治療の目標であり、リハビリテーションの手段でもある
  ■治療への動機づけ
   1.自らが主体的に治療に取り組むという力が必要
   2.治療への動機づけは一定ではなく、強まったり、弱まったりする
   3.いつも動機づけを再確認する機会を持つ必要性

(4)集団精神療法について
   1.コミュニケーション技術の獲得
   2.アルコール関連問題への洞察や否認機制がかかりにくい
   3.治療共同体ができやすく、治療動機が増す
   4.孤独や寂しさからの解放
   5.病気の理解や病識の獲得がしやすい
   6.自助グループ参加への抵抗感の減少
   7.再発予防
   8.回復や新生の新の意味が見つけやすい

 キーワード 
アルコール依存症は慢性疾患なので、新生(回復)には時間が必要
治療の初めはアルコール依存症本人から入りにくい
治療の前提は、断酒継続
すぐに分かった気にならず、治療や自助組織参加の継続
治療は、行動パターンに焦点を絞ると効果的
身体治療は個人・集団・家族療法の土台
退院は治療の始まり
外来治療は、病気の理解と自助組織の参加が早道

 今月のアルコール・セミナ−はいかがだったでしょうか。
 アルコール依存症の治療は、一般には意志の問題と考えられており、なかなか治療 に結び付くことが難しいということが多くありますが、まず、行動すること。
 飲酒者本人が動くことが難しければ、まずは周囲の人から、行動することで、事態 は変わっていきます。
 アルコール・セミナ−がそのきっかけの一つになることを願っています。
(文責:杉本留美)