平成8年度後期アルコールセミナーたより(No.5)
(平成9年2月21日)
一日一日と陽射がやわらかくなり、春が近づいてくるのが感じられる頃になりましたが、皆さんいかがお過しでしょうか。
さて、平成8年度2期アルコール・セミナ−もそろそろゴールが見えてきました。 今回は、富山市民病院精神科医吉本先生による「アルコール依存症からの回復−治療について−」の講演でした。その内容についてご紹介します。
(1)治療を妨げるもの
病気に対する否認→本人、家族
(大酒飲みだが、病気ではない)
病気についての知識が不十分→本人・家族・社会
(意志が弱いから、酒を止められないという誤解)
(アルコール依存症とは駅のベンチに寝ている人達だけだという誤解)
アルコール依存症悪化への役割の認識のなさ→家族、社会
ボ−っとして状況理解が不十分→本人
(意識障害、コルサコフ症候群、痴呆によるもの)
(2)治療についての基本事項
節酒は不安定で発作的に飲みたくなることが多く、節酒するより断酒する方がやさしい。
自分が主体的に治療に取り組むという動機付けが必要
どんな治療法がいいかというよりも、まず治療を継続することが必要。
(3)アルコール依存症に対する治療
対象者→アルコール依存症者、家族、会社関係者、地域の関係者
アルコール依存症者が最初に病院を受診することは少ない。
治療の対象者はどうしても家族などになる場合が多い。
アルコール依存症者の周囲には、飲み続けるのに都合の良いシステムが出来上がっている。
その実体が何かを知り、それを変えるように行動していくことが大切。
治療の方法
外来治療……早期発見・早期治療、家族療法の取り組み
離脱症状の軽減、断酒の動機づけ
家族療法、個人精神療法、自助グループの参加
(ア症でないという否認がある場合、他診療科からの紹介で治療につなげる)
入院治療(3か月)
外来でなく入院治療が望ましい場合
本人や家族に、入院による教育が必要な場合
家庭で看護できない場合
外来では危険な場合
治療内容
身体治療、院内断酒会、ミーティングの参加、自助グループの参加、内観療法
生活療法、行軍(遠距離歩行)、レクリェ−ション、個人精神療法、家族療法
集団精神療法、家族療法等
*以上のことを通して、行動パターンを変える
退院後の治療(断酒期間1年間を一応の目安とする)
外来通院(通院と抗酒剤の服用、毎週1回、1年間の通院)
自助グループへの参加(最低3年間の参加)
日常内観、集中内観
(4)治療の目標
断酒することを当面の目標にします。
最終目標は、考え方や生き方などを家族ともに修正していくことです。
その結果、健康で幸せな生活ができるようになります。
(断酒だけを治療目標にした場合、断酒しても、別な病気が出現するからです)
アルコール依存症という病気は、なかなか医療機関に結びつかないため、治療することが難しく、またどんな治療がなされているのかが分からないために、かえって行きづらいということがあったのかもしれません。今回の講演の中で、外来治療でも十分効果があるということが分かりましたし、また入院治療、外来治療をとおして、治療の最終目標(健康で幸せな生活ができるようにすること)に到達できるのではないでしょうか。(文責:杉本留美)