平成10年度前期アルコール・セミナーたより(No.2) 

(平成10年5月15日)



             今年は早くから夏のような暑さになったり、梅雨のような雨が続いたりと天気が変わりやすくなっていますが、皆さん体調はいかがでしょうか。
 さて、平成10年5月15日に平成10年度前期アルコール・セミナ−第2回が行われました。今回は、富山市民病院の吉本先生に、『アルコール依存症の治療』をテーマに講演をしていただきましたので、ご紹介いたします。

アルコール依存症で何を治療するのか
■身体機能の回復
 アルコール依存症の治療を始める頃は体がぼろぼろの状態。
 幻視、悪夢の出現(追いかけられる夢、へびなど恐怖、つらいものが多い。)
 入院して1カ月→表面的には正常に見えるが、自己中心的な考え(脳の機能が充分に働いてい
  ない)であり、まとまりが悪い。(昨日:家族に申し訳ない、今日:家族に迷惑はかけていない等)
 入院1カ月以降→少しずつ自己中心的な考えから家族、職場について考えることができるようになる。
 ■分 化 度 = 自 立 度
  アルコール依存症者は一人でいる能力が低いためお酒に頼ってしまう。
            (分化度=自立度が低い)
  夫婦は同じような分化度の場合が多い。また子供の分化度も親と同じレベル。
  分化度が低いとアルコール依存症になる率が高い。
   治療によってもともと持っている分化度を高めることができる。
   治療の例:・コミュニケーションの行動を変える。
        「お父さんは〜と思う」ときちんと主語をつけると誰の問題か、
         はっきりする。
        ・内観も分化度を上げる。
    ※頭でっかちの人は行動が伴わない。(本での知識は借り物)
 ■家族の機能を回復する。
  家族の一人一人がどんなにいい人、すばらしい人であっても集団になった時に各々がうまく役割分担し、機能しなければよい家族にはならない。
  アルコール依存症の家族はだめだというわけではなく、家族一人一人がうまく機能していないといえる。
    問題は家族だけで解決しようとする。家族の恥を隠そうとする。
    閉鎖的→開かれた家族にすることが大切。

治療を妨げる因子
 ■個人のレベル
  病気に対する否 認
   @大酒のみでアルコール依存症ではない。
   Aアルコ−ル依存以外は問題はない(アルコール以前の問題を認めない)。
  アルコールだけをやめても、他への依存等がみられる可能性が大きい。
 ■家族のレベル
  病気への否 認
   病気に対しての知識が不十分が原因
    酒飲みだが、時々はやめられるようになってきている。
    一ヶ月、半年はやめるから大丈夫(重症にになると飲めなくなる時期がある)
  家族が果たしているアルコール依存症悪化への役割の否 認
  家族も治療の対象であることに対する抵抗。
 ■社会のレベル
  飲酒に対する寛容さ(問題指摘が遅れる)

治療を行うに際しての基本事項
 @節酒ではだめ。断酒を継続するほうがやさしく、またアルコール依存症の治療の目標でもある。生命予後もよい。
 A治療への動機づけ
  自分が主体的に治療に取り組むという力が必要。
  いつも動機づけを再確認する機会を持つ必要がある。
 B治療の継続

家族が治療を受けた方がよい理由
 @家族が飲酒に巻き込まれており、家族が精神的に落ち着く必要があるため。
 A家族が飲酒による悪循環に組み込まれ、家族の行動が悪化の原因の一つとなるため。
 B家族がすでに生きづらさを持っており、治療を受けた方がよい。
 C家族の感情表出、コミュニケーション、行動面の変化によって回復する場合もあるため。
 D患者と妻(夫)だけの問題ではなく、子供の考え方や生き方にも影響を及ぼすため。

Q & A

Q アルコール痴呆症の症状とは ?

A 50〜60歳頃から少しずつ発症。物忘れ、判断力、抽象的な思考ができなくなる。人格の変化。アルコールを長く飲み続けると、脳萎縮、肝臓障害、すい臓の障害など、合併症が多くみられ、アルコール単独影響かどうかは判断しにくい。


Q “自分で考え、自分で行動することが大事”とあったが自分で考えるということはどういうことか。例えば、他者の言った良いこと、よい研修の内容を行動にうつすことと矛盾するか ?

A 自分でよいと思ったことを取り入れて行動することは大切。


Q アルコール依存症は進行性の病気と言われているが、飲み続けるとそうなるのだろうか。 ?

A 毎日晩酌する人は多くみられる。多くは年齢が高くなると飲む量が少なくなってくる。アルコール依存症の場合はそれが年をとっても量が多くなったり、変わらなかったりすることが多い。ある年代では判断しにくいが、飲み続けることはアルコ−ル依存症に近づくことは確かである。また、アルコ−ル依存症の有無にかかわらず、飲み続けることは脳に障害をあたえ続けることになるのは確かである。


(文責:杉本留美)