やすら樹 No.73 2002 MAY.
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「朝が来るまで泣き続けた夜も 歩きだせる力にきっと出来る 太陽は昇り心をつつむでしょう やがて闇はかならず明けてゆくから どうしてもっと自分に素直に生きれないの そんな思い 問いかけながら あきらめないで すベてが崩れそうになっても 信じていて あなたのことを --------------」 |
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この詩を教えてくれたのは、摂食障害と闘っているA子さん。彼女は、「自分に素直に生きれないの」というフレーズが好きで、辛いときや悲しいときにそっと口ずさむ。彼女を共感させたフレーズから、摂食障害の患者さんと素直なこころを持って生きる事と関係があるのでしょうか。
摂食障害は、食行動に関する病気で拒食症(神経性無食欲症)と過食症(神経性大食症)があります。両方の病気は、食習慣や食行動異常、認知障害、様々な体の異常など共通点があります。A子さんは過食症で痩せたい願望があるのに関わらず大量にものを食べ、その結果罪悪感や自己嫌悪感に襲われ、抑うつ的になったり、太らないようにするために自分で嘔吐したり下剤を使用したりしており、今回は薬物乱用で入院となっています。この病気の本態は、摂食や痩せをとおして自己の拠りどころと、かりそめの自分らしさの樹立を求めていると言われています。この病気の回復には、自分の心の内側を少しずつ見つめ直す必要が有ります。自分と対座し素直な心でみることにより、かりそめの自分では意味ある生き方ができないことに気がつくことが回復に通じるのです。
この素直なこころの大事さは、病気の人に限りません。松下電器社長であった松下幸之助は、自らの人生体験か得られた考えを、PHP誌を主宰するなかで説いています。例えば、「素直なこころ」、「反省のこころ」、「革新のこころ」、「楽観主義」などで、特に素直な心の大切さを説いている。人は生きていく上で、ときに対立や誤解、憎しみなど好ましくない姿を露呈してしまう。そうならないためには、何物にもとらわれない「素直な心」を持ち続けなければならない。すなわち誰に対しても何に対しても耳を傾けて学ぶ謙虚さ、一切を許し入れる寛容さを持ち、物事の実相を正しく見てその価値を認識してその道理を知る心を持つことであると。
どうしたら素直な心で生きて行けるのか。様々な方法があるが、内観が最有力候補である。内観創始者である吉本伊信は、内観の目的を「我が砕け素直になること」と言っています。内観体験者であれば集中内観後の清々しく素直な気持ちになれることは均しい体験でしょう。
A子さんは、昔は落ち込んだ時に部屋を真っ暗にして中島みゆきの暗い歌にどっぷりつかっていたが、今は自分の小さな殻に閉じこもることなく、底が見えた自分から羽ばたいて生きたいという願を込めながら「peace of my wish」を聞いていると伝えてくれました。回復の息吹を春の季節と共に感じています。