FAQリスト |
アルコール依存症とアル中とは違うのですか。
この二つは医学的には別なものです。アル中は俗称で、医学的にアルコール中毒と言います。アルコール中毒は、アルコールを体内に入れたことによる、好ましからざる結果を言い、まさに中毒です。この用語には、人が自分の意志で飲酒したかどうかは問われません。例えば、コンパで無理に一気飲みさせられて、呼吸が止まってしまう状態になった場合、急性アルコール中毒と言います。それに対して、アルコール依存症とは、自分の意志で、繰り返しアルコールを求め飲む習慣で、難しく言えば「薬物探索行動」を指して依存と言います。症とつくのは、病的な飲酒習慣や薬物探索行動を示すようになった時です。
薬 物 → このましからざる結果(中 毒) → 薬 物
主人はアルコール依存症と思うのですが、病院に行くのを嫌がります。本人を連れていかないとだめでしょうか。 |
そんなことはありません。アルコール専門病院では、アルコール依存症の周りにいる方でその問題を感じた方、一般的には妻や夫、両親や子供、兄弟が多いのですが、来院されて相談されれば治療が始まります。家族の方が、アルコール依存症の方のことを思って一生懸命に尽くしておられる事が、かえって飲み続けるために都合を良くしたりしている事があります。そんな事を教えていただいたり、病気のことを知ったり、同じ悩みを持った方々に出会うことを通じて、相談に来られた方が、楽になることがまず第1と思います。 |
家族の中で一番健康度の高い方からの治療を |
家族病ということに抵抗や疑問を持たれるのは当然です。確かに、アルコール依存症になっているのは家族ではありません。しかし、Aさんというアルコール依存症の方がおられると、その前の世代にアルコールやその他の薬物の問題の両親や、叔父さんや叔母さんがいたりします。Aさんの兄弟・姉妹の中にもいる場合もあります。また、Aさんの妻(Aさんが女性であれば夫)の家族にも同じような問題を認めます。Aさんの子どもさんはどうかと見てみますと、ある統計では男の子供であれば50%、女の子供さんは結婚した夫が25%でアルコール依存症になるという報告もあります。アルコール依存症にならなくてもACの問題が待ちかまえています。ですから、Aさん一人の治療では不十分ですし、さらに治療に最初からAさんが訪れる場合が少なく、相談に来られた家族(大抵は家族の中で最も健康度の高い方)からの治療が有効なのです。家族が変われば、アルコール依存症の方も変われる可能性が高いのです。 |
禁断症状(離脱症状)が起きるのではと不安で、酒をストップできません。何か良い方法はありませんか。 |
離脱症状(昔は禁断症状)は、アルコールを急に中止したり減らしたりした場合に、手のふるえや汗をかいたり、心臓がどきどきしたり、眠れなかったり、ひどい場合に幻視やケイレンなどが出現するのをいいます。一度このいやな体験をしますと、アルコールを止めたいと思っていても、怖くて実行できにくいことがあります。専門医に相談すれば、ベンゾジアゼピン系の薬を使って嫌な思いをできるだけ少なくしていただけます。 |
薬物(ベンゾジアゼピン系)の投与 | → |
アルコール依存症と医師から診断されました。酒を断つしかないと言われましたが、適量を飲む方法ではだめでしょうか。 |
適量を飲む方法、つまり節酒という対処法は、アルコール依存症になる前では可能です。アルコール依存症と診断された方は、残念ながら断酒しかありません。過去に、全世界でいろいろな医師が節酒でやれないかいろいろ工夫しましたが、すべてうまくいかなかった歴史があります。アルコールを長期間飲んでいますと、脳にアルコールが届くと飲む前に誓った節酒は無効になるように脳が学習してしまったのです。現在の医学は、この学習された中身を消し去ることができないのです。 |
アルコール依存症の治療 | → |
主人はアルコール依存症と診断されましたが、病院に行こうとしません。アルコールに関係する緊急時にどう対応したらいいのかわかりません。 |
アルコールに関係する緊急時の対応と、依存そのものを治療するアルコール依存症者会復帰プログラム(ARP)導入と、わけて考えた方が良いでしょう。飲酒による緊急には、3つの場合があります。1つは、このままでは生命が危ないと感ずるほど体がアルコールによって障害された場合です。この時は、救急車を呼んで近くの病院に搬送して、まず命を助けることです。後に命に別状がなくなれば、依存に対する精神的治療を考慮すれば良いでしょう。第2は、幻覚や妄想、せん妄が出現した場合です。この時は、精神病院で対応していただいて、落ち着いてから専門病院と相談されてもいいかと思います。第3は、飲酒して暴力や器物を破損したりした場合で、警察を呼んで対応していただきましょう。事例化することが大切です。 |
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アルコールによる胎児への影響は、胎児性アルコール症候群(FAS)の症例が1973年に米国で報告されてから注目されるようになりました。生まれた後に、発育不全(低体重や低身長など)・顔面の異常・中枢神経の機能不全(知能障害など)などで発見されることが多い。どのくらいのアルコールを飲んだらFASの危険性があるのか。現在の段階では、妊娠時期の安全な飲酒量は明かでなく、妊娠の可能性がある場合や妊娠していたら飲酒しない方がよいと言えます。ただ、日本人ではアルコール依存症の妊婦が妊娠初期に酒に換算すると一日あたり2〜3合を毎日飲酒するとFASが出現するという報告もありますが、一つの目安と考えられた方がよいでしょう。 |
私はアルコール依存症だとわかったのですが、病院は恐いので自助グループだけの参加で治らないでしょうか。 |
病気からの回復には、治療の3本柱と言われるものがあり、その1つが自助グループへの参加です。ですから、専門治療を受けないままで回復を急いだ場合は、再飲酒という失敗が多くて効率的でありません。自助グループには、本来の治療機能がないのです。自助グループだけの参加は、心と体の相談機関を持たないでいることなので、安心して回復に取り組めないと思います。是非、専門病院の門も叩いて下さい。 |
夫はアルコール依存症と言われていますが、節酒すると言いながら飲んでいます。飲み続けているとぼけがでてくると聞いたのですが本当でしょうか。 |
長年アルコールを、それも大量に飲んでいますと体に不都合が生じます。一般に、肝臓が障害されることは良く知られています。しかし、アルコールという薬物は、体のいろんな部分に影響を与え、脳も例外ではありません。脳の障害は、肝臓のように検査データの異常という形で見つかりにくく、しかも、障害されるような時期にはいつも酒が入っている状態のために、脳の障害が出現しても酩酊状態と誤解する傾向が強いのです。脳の障害は、記憶の障害という形で出現しやすいのですが、飲酒によって糖尿病などいろんな身体合併症を伴っていることが多く、アルコールのみの影響とはいいにくいのですが、記憶を含めた広範囲の知能や認知障害を呈した、つまりぼけ=痴呆の患者に遭遇すること珍しくありません。ぼけになりたくないとご主人が思っておられたなら、断酒を実行していただくより、他に手だてはないと思います。 |
アルコールと睡眠薬(ベンゾジアゼピン系薬物)を一緒に飲むと自動車運転に問題があると聞いたのですが、本当でしょうか。 |
アルコールでも睡眠薬(ベンゾジアゼピン系薬物)でも、どちらも運転技術能力を低下させると指摘されています。その詳細は運転感覚や協調運動の障害と言われています。運転技術能力を障害されやすいアルコールと睡眠薬を同時に使用して、まだ体にアルコールや睡眠薬が残っている状態で運転した場合、日頃の運転技術を発揮できない可能性が高く、両薬物が身体から排出されて運転するように心がける必要があるでしょう。 |
アルコールを睡眠薬として使っていますが、アルコール依存症になると言われたのですが、本当でしょうか。 |
アルコールは睡眠薬の代替えとはなりますが、次の点で現在お医者さんが使っている睡眠薬(ベンゾジアゼピン系薬物)より欠点があります。まず、使用している内に同じ量ででは最初に期待しているほど睡眠効果が得られなくなり、結果的に飲む量が増加してしまいます(これを耐性の増加と言います)。次に、アルコールは自己調整の薬物となっており、眠るためと自分に言い聞かせて毎日寝酒をしないとおれなくなり(これを精神依存と言います)危険を伴いやすいのです。睡眠薬はお医者さんのコントロール下であり、自分で勝手に増やせないですし、薬ですので用心して服用する気持ちにもなります。さらに、アルコールを大量長期間飲んで急に止めたときに現れる離脱症状は、重篤であります。睡眠薬にも離脱症状は認めますが、アルコールと比較して重篤度は軽いのです。 今までの説明でおわかりのように、睡眠薬としてアルコールを使用していますと、次第に飲む量を増やしていかなければならなくなり、寝酒として欠かすことができなくなりアルコール依存症に陥ることが、容易に理解できると思います。アルコールは楽しんで飲むもので、薬として利用すべきものでない事を肝に銘ずべきです。 |
アルコール依存症者の平均死亡年齢は、52歳前後といわれており、日本人の平均寿命と比較してかなり短いことになります。 その原因は、病気、事故、自殺であり余命を短くさせています。病気でも、肝硬変症や心不全、癌などによって死にいたる事が多いのですが、アルコール依存症によって糖尿病になり、体のいろんな血管が障害され、それによって死にいたることもあります。次に、不慮の事故は、飲酒運転で事故死したり、酔って道路に寝ていて車にひかれてしまうなどど考えただけでも恐ろしくなります。最後に見落とされがちですが、自殺も多いのです。心の病気による自殺者が多いのは、順番に精神分裂病、うつ病、アルコール依存症と続いています。 長生きがしたいと思う場合、断酒することより他には道はありません。肝に銘じて下さい。 |
タバコによる発ガン性は良く知られた事実です。しかし、アルコールの発ガン性はあまり知られていませんが、れっきとした発ガン性があるのです。 1988年に、WHO(国際癌研究委員会)は、「アルコール飲料は人体に発ガン性を有する。」と結論し、注意を喚起しています。発ガンの場所は、口腔内、咽頭喉頭、食道、肝臓と特定しています。 食道までアルコールの発ガン性が認められているが、胃は何ともないのかという疑問があります。アルコール依存症者の胃内視鏡健診で、胃ガンの発見率はそうでないものに比較して8〜9倍多く見つかったという報告があります。しかし、アルコール依存症者の生活習慣(喫煙、偏食や低栄養の食事、塩分や刺激性の食事、野菜や果物をあまりとらないなど)がガンの発生を高めている可能性があって、アルコールだけを特定できないだけです。アルコール依存症者に胃ガンが多く見つかるのは事実のようです。 |
女性は、男性と比較して少量の飲酒で、短期間(男性の半分くらいの年数)にアルコール依存症になると言われている。同じ事がアルコール性肝硬変にも認められ、表に示すように少ない飲酒量で短期間に発生します。 その原因は、女性ホルモンがアルコールの代謝を阻害するためと言われています。男性と同じ量のアルコールを飲んだ場合でも、女性の血液中アルコール濃度は短時間に上昇し、濃度も高く、排泄にも時間がかかります。ですから、女性の方がアルコールの代謝能力が低く、酔いやすく、肝臓や脳などが悪影響を受けやすく、アルコール依存症になりやすと考えられています。さらに、女性の飲酒行動が男性に比較して、精神安定剤代わりなど、嗜好品というより薬物として使用する場合が多いことも関係しているかもしれません。 |
妊娠中に飲酒すると流産しやすいと聞いたのですが、本当でしょうか。 |
流産と飲酒に相関があると言われています。アメリカの報告(1997年、「Epidemiology」8:509-514)によると、妊娠3カ月の時に週4回以上アルコールを飲んでいる女性は、飲酒していない妊産婦と比較して2倍の流産率だと言われています。 飲酒しない妊産婦は、妊娠の経過に伴い流産は減少するのが普通である。ところが、週4回以上アルコールを飲む妊産婦においては、妊娠8〜10週までかえって流産率が増大すると報告されています。 妊娠中の飲酒は、流産や胎児性アルコール症候群(FAS)の危険性があります。妊娠している女性や妊娠を試みている女性は、アルコールを控えるのが賢い選択だと思います。 |