IT革命時代のHMI

 多数のコントロールを用いて使いやすくて実用的な性能が出るプログラムを書くにはかなりロジックが複雑になり、バグが発生しやすくなります。業務アプリはいろんな便利機能を要求される(これをクリックしたら自動的にこれをこうしてほしい等)ので、どうしてもイベントがスパゲッティになってしまいます。自動で細かいことまでできるようにすることは至難の技です。

 たとえて言うなら、自動車のオートマティックトランスミッション車でマニュアルミッション車の微妙なクラッチワークに相当することを自動でやってくれというようなものです。ドライバーの自由意思で好きな回転数を好きなギアで使ったり、エンジンの一番おいしい回転数でのトルクをダイレクトでタイヤに伝えたり、ヒールアンドトゥで行うスムーズなギアダウンをAT車で自動で実現することはいまだに不可能です。可能にするには高度な人工知能が必要になるでしょう。たとえ可能になったとしても、ドライバーの好みやその瞬間瞬間のドライバーの気分までをも反映させることは不可能でしょう。

 GUIにおいてもこれと同じようなことが言えると思います。したがって、なるべくオペレーションを必要としないように自動化される処理においては極力操作対象となるコントロールは少なくすべきです。また、簡易なオペレーションで済むようなことをツールで自動化するようなこともしないでおくべきです。逆に、多機能で細かいところまで手が届くGUIにした場合は、極力オペレーションの自動化はしないでおくべきです。その両方を求めると、結局どっちつかずのGUIになって、最悪の場合品質が劣化します。

 このような要求仕様になる権化は、仮に手作業では合理的であっても、EDIにとっての不合理なワークフローにあります。最近はSAP R/3のようなERPパッケージの導入が進んできていることもあり、ERPに合わせてワークフローを変えるという考え方がようやく日本でもこれから浸透する傾向にあります。やっと欧米並みの運用の入り口に到達したということでしょうか。

 しかし、今までの日本のIT業界は、ベタベタの業務フローのおかげで必要になっていたプログラム開発によって、飯が食えていた部分があることは否定できません。ということは、その分の仕事が減ってしまい、バブル崩壊後に起こったように、頭数の派遣によって成立しているソフト会社はますます淘汰されていくことになります。

 したがって、生き残りを図るためには、従来からの基盤となる業務に加えて時代の要請に合ったITソリューションを提供していかなければなりません。また、SOHOブームやベンチャーブームにより小規模事業所が増えていきますが、その殆どの若い経営者が必要としているものは、従来型の小規模基幹システムだけではなく、売り上げや日々の業務に直結した業務の生産性向上のための情報システムです。したがって、これらでいかに顧客満足度を向上させるかが勝負の分かれ目になります。

 したがって、我々SEは今までのように、定型業務や後処理業務だけでなく、お客様の事業に直接かかわる業務にまで突っ込んだ業務理解が必要になります。すなわち、今までのように経費削減が目的のコンピュータシステムではなく売り上げ利益増加のコンピュータシステムを構築していくことが主たるコンピュータシステムになるのです。一部の大企業ではすでに具体的に行われていることですが、これが中小零細企業にまで及ぶ日はもうすぐそこです。

 そのときに重要になるのは、冒頭で述べたようなシステムの立場や性格をあいまいにしないことです。高度なシステムを高度に使うには高度な操作スキルが必要なのです。ただし、従来の汎用機のシステムのように、コンピュータの都合で高度なオペレーションスキルが必要とされることと混同しては行けません。所詮コンピュータは道具ですから、作業の生産性を向上させなければなりません。マシンの性能、ソフトウェアの機能、作業の生産性、手作業では実現できないメリットといった要素のバランスを考えてシステム設計を行い、それをお客様に理解していただくことが重要なのです。

 今年パソコンが10万円を切りました。家電製品は10万円を切ると普及が加速します。5万円を切ると爆発的に普及します。つまり、パソコンが使えて当たり前の時代がもうすぐ来ようとしているのです。キーボードアレルギーなどといっていては首が飛ぶ時代が日本でもやってくるのです。したがって、一般人のコンピュータに対する特別視はこれから比較級数的に減っていくこととなります。これは先ほど述べたお客様の理解という点では基本的な事柄の理解を得やすい方向となるのですが、その裏腹にお客様がより高度でシビアな目を持たれるということでもあります。我々IT業界の人間も襟を正す時期がやってきていると思います。

 IT業界の進歩は日進月歩ではなくて秒進分歩だといわれて久しいですが、当分この傾向は変わらないようです。年とともに年々キャッシュバッファが減っていく我が脳みそに不安を抱えながら物想う今日この頃です。

何はともあれ人間関係

 いやはや、IT革命と言われてひとしきり情報機器に注目が集まっている今日この頃ですが、いまだに一般の人はコンピュータ、それもコンピュータ技術者に対する偏見はひとしおですね。ま、旧来パソコンを扱うというだけでオタク扱いされてきた経緯もありますし、しょうがないと言えばそれまでです。でも、業界内部にいる人ならわかると思いますが、中には確かに変な目で見られても仕方の無い人種は存在します。そんな人は業界内部のほとんどの人からも変な目で見られているという現実があり、8割方が普通の人です。逆に、一時期花形産業ともてはやされたことから、カタカナ商売にあこがれて入ってきたミーハーな人たちも存在します。つまり、コンピュータ業界といえども、ほとんどの人は普通に仕事として割り切ってコンピュータを扱っているんですね。

 だから、昔は、自宅に帰ってまでもコンピュータに触れているという人はあまりいませんでした。汎用機やオフコンが全盛のころ、会社でソフト開発のために扱うコンピュータといえば専用端末であり、その当時、巷でパソコンと言われていたNECのPC98シリーズとはまったくの別物の機械でした。ですから、コンピュータの会社へ勤めていても市販のパソコンが操作できない人は沢山いたのです。これはその当時NEC系の情報処理サービス企業に在籍していた私がこの目で見てきた事実です。ところが、ダウンサイジングという流れの中で、専用端末が市販のパソコンに置き換わるようになり、今までパソコンがわからなかった業界の人も理解せざるを得ない状況になってきたのです。

 とはいえ、大きなソフト開発会社では、役割分担によってプログラムを書くだけの人や、設計するだけの人、はたまたマネージメントするだけの人とかが存在します。そのような人々はパソコンの環境設定などは世間一般のパソコンオタクよりスキルが低かったりします。特にネットワークに関してはネットワーク専門部隊が全部やってくれるので、いまだにほとんどのソフト技術者があいまいな理解しかしていないのが現実です。これまた、最近まで社員数500を数える情報処理サービス企業に在籍し、社員数15万を数える通信系企業のための業務システム開発を行う社員数5000人のソフトウェア開発企業で開発プロジェクトに携わってこの目で見てきた事実です。しかし、大企業においては役割を分担して総合力で会社として仕事をこなすわけですから、それでよいのです。業務アプリケーションを書く人はプロトコルの細かいところまで知る必要はありません。設計する人は「どの技術で何が出来るか」がわかっていればプログラム一行一行の細かい部分まで知る必要はありません。それぞれがそれぞれの専門分野で力を発揮すればよいわけです。それも、ほとんどの人が会社に入ってからOJTで仕事として身に付けたことばかりです。

 逆に、ほとんどの人が普通の人たちであるからこそ、業界動向や技術に無頓着で、会社に言われたからやるという人が多いため、DogYearといわれて技術革新が早いにもかかわらず、保守的で新しいことにチャレンジしない人が多いのです。そりゃそうです、今まで苦労して覚えてきたことのかなりの部分が役に立たなくなり、新しいことを覚えなおさなければならないのですから、普通に仕事をしている人にとっては苦痛でしかありません。現実に、新しい技術の習得が出来なかった人はマネージメントに徹するか別の職種に転職するしかないのです。そういう意味では、いわゆるオタクと呼ばれ日夜コンピュータばかり触っている人が、最新技術を着々と吸収し会社内部の技術革新の一助となることは確かです。また、日夜コンピュータを触って情報収集していないと技術革新についていけないことも現実です。

そのような人々は往々にして暗いが多く、ほとんどの場合普通の人々とのコミュニケーション力に劣ってしまう傾向があります。しかし、日夜情報収集する人の中にも、関西お笑い芸人の乗りでみんなを楽しませる人や、茶髪黒服で洒落込んでいる人も現実に存在します。つまり、普通の人で、いわゆる「仕事が出来る」人は、オタク状態に陥ることなく最新技術を消化します。したがって、コンピュータに関わるとオタクになるとか、オタクじゃないとコンピュータはやれないという一般の感覚は正しいとはいえません。

しかし、そうなりやすい傾向は依然として存在します。というのは、もともと内向的な性格の人がコンピュータの世界に入りやすく、その世界に没頭してしまうことによって普通の人々との間に感覚のずれが起こり、それがさらに対人コミュニケーションを遠ざけ、さらにコンピュータの世界にこもってしまい、同じ種類の人々と文字で会話するようになってしまうと、いわゆるコンピュータオタクの状態になってしまうという現実があるのです。

過去においてワープロやインターネットが普及する以前の段階でパソコンに関わっていた人は、パソコンセットアップオタクやゲームオタク、プログラミングオタク等でした。そしてそのような人々はそうでない人々との交わりを避け、挙句の果てに馬鹿にするというレベルにまで達してしまうこともしばしばです。その理由として、一般の人があまりにもコンピュータに対して無知だという現実を見逃すことは出来ません。今でこそ学校教育でコンピュータを扱うようになりましたが、昔は一般の人にとってコンピュータの知識は皆無だったからです。また、必要なかったことも事実です。必要が無いから知らなくても良いわけで、そういう普通の人にとっては、そんな無意味なことを知っているからといって人を小馬鹿にするようなコンピュータオタクという人種に対して憤りを覚えたに違いありません。

 そんなこんなで未だにコンピュータ技術者に対する偏見は未だに根強く残っているのでしょう。しかし、IT革命に追従できなければ、鎖国でもしない限り、米国企業に市場を席巻されることは確実です。ということはこれからはみんながそこそこコンピュータを使えてあたりまえの時代になります。そうなって初めてコンピュータを普通に使うことが難しくも何とも無いことが一般に認知されるようになります。そうなると、世のいわゆるオタク達が市民権を得るかというとそうではありません。先にも述べたように、要はコンピュータそのものではなくその人の性格の問題であり、その人が殻を閉ざしている以上普通の人とのコミュニケーションに問題がありつづけるので関係は改善しえません。そのような状態では、一般人はオタクの持つ有益な情報を利用できませんし、オタクもまた寂しい人生を過ごすことになります。みんな仲良く明るく楽しく過ごせる社会が良い社会です。そうならないと昨今の事件やハッカーによる被害が多発しつづけるでしょう。

 では、どうすればよいのでしょうか? 言うのは簡単です。

(1)オタクが一般人になるように勤めること。

 具体的には一般の人が興味を持つことに関心を持ち、一般の人からそのことに関して話を聞くように努めコミュニケーションを図ること。そして、対人コミュニケーションの場で重要なファクターとなる「空気」を読み取り「間」が抜けないようなコミュニケーション能力を磨くこと。そして何よりも重要なのは、コンピュータをやっていると何事も論理で判断しがちになっている思考を切り替え、相手の気持ちや感情を理解できるようにすること。

(2)一般人が改心しようとしているオタクに理解を示すこと。

 心を開こうと努力しているオタクに排除的な言動を行うと、オタクは簡単にもとの殻に閉じこもってしまいます。コンピュータオタクに限らず、技術立国である日本の屋台骨を支えているのは、いわゆるオタクと呼ばれる人種であることを認識し、改心しようとしているオタクに対しては手を差し伸べること。ましてや、コンピュータ技術者だからというだけで偏見を持つようなことをしないこと。

 この2点が社会で実践されればいわゆるオタクと呼ばれる人種は無くなり、それに絡む社会的な問題は激減するはずです。親が子供にパソコンを買い与えるべきかどうかなんて心配も要らなくなる世の中になるのです。ところが、(1)はもちろん(2)に関しても「生理的に受け付けない」といわれる問題が存在するので、「言うは易し行うは難し」です。昨今理解に苦しむ事件が相次いでいますが、そのほとんどが基本的にちゃんと人とコミュニケーションできていれば起こりえないような事件が多いように思います。その極めつけとしては究極の優秀なオタクの集まりであるオウムが挙げられます。日本の物理学界を残念がらせる優秀な頭脳があそこに流出して社会にとって無益な使われ方をしているのです。単純に自分達の町から出て行けなどという浅はかな感情で“監視”とかしていても問題は解決しません。新たに同様な人種が清算されつづけているのです。親子のコミュニケーションが薄くなる間取り、生活習慣、はたまた、友人との健全な有効を妨げる受験戦争の低年齢化、少子化による家庭内コミュニケーションの低下、などなど、物質的には豊かになっても精神的には貧しくなる一方です。もっとも身近でもっとも単純で、しかし、もっとも難しくてそれゆえにみんな悩んでいる一人一人の人間関係こそが、昨今の少年犯罪や社会全体をも揺るがす問題の根底なのです。ですから、今こそ他人事ではなく社会全体の問題として一人一人が明日の日本のために真剣に考えるときが来ているような気がします。

さて、以上のようなことを考えつつ、私の置かれている環境を省みて見ましょう。いままでは大規模な開発組織の一員として仕事をしてきましたし、お客様も情報システム部門の方でしたので、それこそ全員がコンピュータ技術者であり、偏見など微塵も無かったので何ら問題なかったのですが、今後は地元一般エンドユーザの皆さんと直接仕事をするにあたり、偏見による弊害を被らなくするために何らかの方策を練らないといけないなと思う今日この頃です。

追伸:元同僚のみなさ〜ん、田舎は田舎で結構大変なんですよ〜!

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