21世紀の地方シンクタンクに求められるもの




 21世紀の地域社会には大きな変化が予想される。そこで、その動向を踏まえ、地方シンクタンクの進むべき方向を考えてみたい。

1 21世紀の地域を変える5つの動因

 既存の社会システムの枠組みを揺るがし、変化させる5つの動因が地方シンクタンクに活躍の場を与える。

 (1) 高齢化
 高齢化にともなって生産年齢人口が減少し、高齢者や女性の就業と能力の発揮に対する期待が高まり、その要請を背景に、雇用・就業システムや社会保障制度など様々な社会システムや地域システムが、大きく変化して行かざるを得ない。

 (2) 経済のグローバル化
 引き続き経済のグローバル化が進展し、地域経済、地域の雇用、就業に係わる様々な問題を引き起こしていく。

 (3) IT革命・高度情報化
 IT革命が人間や組織の活動に大きな影響を与えることで、人々の生活をはじめ、企業、就業形態、産業の立地などが大きく変化していく。

 (4) 価値観の多様化
 豊かさの増大等に伴って、より高度の自己実現を目指す人々が増加し、その対象として、地域活動、ボランティア、生涯学習などへの関心が高まっていく。また、価値観の多様化は、人々の消費ニーズや行政ニーズにも変化を与える。

 (5) 地域の自立化
 地方分権への動きに象徴されるように、従来の、先進国をモデルに全国統一の施策を国が企画し実施する中央集権型・キャッチアップ型のシステムは有効性を失ってきている。

 新しい政策・対策の発生源は、従来の「先進国」から「現場」へと転換しつつある。この結果、地域すなわちニーズとシーズが直接ぶつかる「現場」において、その動向を直接把握することの重要性が増していく。

2 21世紀の地方シンクタンクに求められる課題

 これらの変化に対して地方シンクタンクには3つの対応が必要になると考える。

 (1) 専門的能力を強化する
 情報化時代においては、企業や地方公共団体の情報収集能力が向上するとともに、シンクタンク間の競争の激化が進むと考えられる。また、特に21世の初頭には、上記のように様々な側面で大きな変化が予想されるが、大きな変動にはゼネラリストでは対応できない。これらは、地方シンクタンクに専門的能力の強化を要請すると考える。
 この結果、地方シンクタンクは、人材の採用や人材開発のあり方について見直しを迫られることになるだろう。

 (2) 地域を総合的に把握する
 中央の研究者・シンクタンクも地域の調査研究を行う。しかし、その地域像は、様々な研究目的に必要な部分のみが輪切りにされ、部分的に理解、把握されるのみである。

 地域の実状、可能性を見いだし、それをその地域にふさわしい政策に生かすためには、継続的「総合的」に地域を調査分析していく主体が必要になる。この役割は今後も地方シンクタンクがその一翼を担うべきものである。

 (3) 提言力のために一歩踏み出す
 変動する21世紀初頭の環境の中で、地域の企業、団体や地方公共団体は、自らの進むべき方向を示す調査研究をシンクタンクに求めている。
 これに対する地方シンクタンクの方策は、決して地域の統計的な実情把握のみではない。統計は、たしかに知的な興味を惹き、レポートの実証性をアピールし見栄えをよくする。

 しかし、アンケートや統計は、基本的には現象の後追いである。一般に現象をマクロに見れば見るほど「変化」の兆候はわからなくなるものであるが、統計は、まさにマクロの手段である。少数の先端的な事例の数値は、その他大勢に希釈されてしまう。

 地域の様々な主体に役立つ提言を行うためには、
ア 先端事例の調査と、
イ 現象の理論的な検討が必要であり、それらを踏まえた
ウ 将来の予測が重要である。

また、アなどにからみ、地域の課題の解決には、地域外の現象の調査と理解が不可欠であることが多い。

 すなわち、地域を総合的にとらえるために地域に密着しつつも、地域の新しいニーズに対応できる提言能力を身につけるために、専門的能力の向上が期待されると考える。
 


雑誌『地域研究交流』VOL16.NO3「地方シンクタンク協議会設立15周年記念号」 平成13年2月
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