メインテーマ「IT革命と地域社会」のもと、第一分科会では「IT革命と新規産業の創出と雇用」をテーマに意見交換が行われた。
1 地域経済の実状とIT対応の必要性
●経済のグローバル化に伴って、中小製造業の空洞化が進行しつつあり(堺都市政策研/宮里)、造船や観光が低迷する長崎県など重厚長大型や基礎素材型産業を抱える地域では、地域経済は一層深刻な問題となっている(長崎経済研/岡本)。また、製造機能の海外流出は、単純な組み立てから金型などわが国の基幹的分野にまで広がってきている(岡山経済研/土倉)。
●しかし、金型の熟練技能者の技術をコンピューターに移すことで、国内に競争力のある金型製造を残す等の可能性が見えている(土倉)ことなど、新規産業創出への模索や(岡本)、新規創業への期待も各地域で高まっている(宮里)。このように、地域経済の活力維持や雇用の確保に関連して、ITに対する認識と期待が高まりつつある。
●しかし、どのようにITを活用していくべきかについては、必ずしも明確に見えない状況にあり、具体的な事例や方策が強く求められている(静岡総研/森、中部開発センター/伊藤)という状況にある。
2 IT革命の地域への影響と期待
●ITはツール(徳島経済研/梶本)、フェイス・ツー・フェイスにたどりつくためのツールである(滋賀総研/松岡)が、ITは、広範な情報処理活動の支援・代替を通じて、生産や流通のために編成されてきた企業組織や取引関係に大きな影響を与えると考える。
●この結果、ITは、商取引、サプライチェーン等のITによる再編成(B to B)を通じてディスインターメディエーション(中抜き)を生じさせ、代理店・営業所などを重要な構成要素とする地域経済にマイナスの影響を与える可能性がある。また、系列取引に大きなインパクトがある(宮里)との認識も含め、小規模企業のITへの対応や雇用のミスマッチなどの問題が今後地域の大きな課題になっていくと考えられる。
●しかし、一方で、ITを活用した新規創業への期待も大きい。少なくとも、インターネット電子商取引は、従来は商圏の狭さの故に困難であった地方企業の専門化戦略を可能にさせるし、ITが、より密接な企業・事業所間の情報交換を可能にする点で、地方の産業立地にプラスの影響を与える可能性がある。
3 IT化への対応状況と課題
●わが国のIT化は着々と進んでいる(熊本開発研/加納)、新しい産業が目に見える形で起きつつあり、今後サービス業などへのITの利用が進む(土倉)という認識があり、また、SCMなどが古くから進められていることや、ITを使って受注・連携を進めている諏訪のバーチャル工業団地(長野経済研/平林)の事例が紹介された。また、当研修会出席にあたってのホテル予約などBtoCの幅広い利用体験(シンクタンクふくしま/渡辺、山梨総研/向山)の報告があった。
●その一方で、ITといっても電子メールとホームページ程度という指摘(しがぎん経済文化センター/波田)や、地域格差の存在(青森地域社会研/竹内)、企業規模間格差の指摘があった(森)。また、企業アンケートでは、効果があったとする企業は少なく、課題として人材不足と費用を上げる企業が多い(百五経済研究所/松池)という指摘があった。
●しかし、全体として、ネットワーク利用は今後急速に増えていく(向山)という共通認識があったと考える。
4 既存企業におけるIT化の課題
●例えば、放送業界においてはブロードバンド化を見据えながら付加価値の高い方向への展開が、また農業にあっては有機農業と直販との結びつきへ、また製造業では高付加価値化への要請が生産からサービス重点への展開を強めるなどが考えられるなど、一般論ではなく分野ごとに影響を把握し対応を考える必要がある(向山)という指摘のとおり、ITは、各業種が基盤を置く技術やコスト構造に応じて様々な影響を与えるのであり、それに応じた新しいビジネススタイルを業種単位で模索、創造していく必要がある。
●一方、小企業ではツールとしても入っていない(平林)、高齢のために使われていない(森)のが実状である。小企業では資金的制約や取扱商品のロットが小さいための効率性の問題等もある(加納)。しかし、これら既存の下請け中小企業は、IT化を進める大企業のイコールパートナーとして密接に連携しながら新しい製品等を作り出し改良していかなければならないのであり(宮里)、それができない中小企業は淘汰されざるをえない。
●これについて、栃木県の具体的な事例にもとづいて、部品調達に地元下請けを使うという感覚が薄れつつある事例が報告された(とちぎ総合研究機構/松本)が、電子商取引の普及等ITへの対応、経済のグローバル化を背景に、大企業は地域の結びつきにとらわれずに品質や価格中心の評価で海外や遠隔地の取引先を選択するようになりつつある。
●こうしたことから、特に中小企業については、ITへの対応や電子商取引等の発達に応じて要請される様々な経営上の努力を支援していく体制が不可欠であると考えられる。
5 雇用に及ぼす影響
国際競争の激化、ニーズや技術の発展に伴う産業構造変化、高齢化などがからみあいつつ雇用に大きな影響を与えている。こうした中で、ITは、自ら雇用問題を引き起こす一方で、その解決手段を提供する存在でもある。
●地域では、安い労働力を求めて進出した企業が国際競争の中で雇用を減らしつつあり(岩手経済研/近村)、人が余っているのを肌で感じる(三重銀総研/大川)状況である。一方、趨勢としての就業の第3次産業化に対して、流通の中抜きは逆方向の力を与えており(土倉)、合理化のためのIT導入に伴う雇用の減少に懸念を感じざるを得ない(岡本)状況である。
●こうしたことから、ディジタル・ディバイドの問題(東北開発研究センター/赤塚)では、教育訓練が重要になること(土倉)。好況が続くIT機器供給産業など雇用ニーズのある企業と人余りの部分をつなぐ新たな役割がこれから必要とされると考える(大川)。
●米国においても、リストラの進展に伴う雇用縮小をITなどの新分野の雇用拡大が吸収するには若干の時間が必要であったことを考えると、当面は雇用のミスマッチの拡大が予想される。実際、IT供給産業を除けばITは雇用の拡大には結びついていない(平林、松本)という点は共通認識であったと考える。
●しかし、期待を含めて考えれば、IT利用で遠隔地との協働が可能になれば地域の産業立地やSOHO等の増加をもたらし地域の雇用増加も期待されること、また、高齢者、女性、障害者などの就業に適した環境を作り出すものと考えられる。
6 IT革命と新規産業の創出
●IT革命時代の新規産業を従来のそれと区分するのは、単に製品を開発、販売するだけではなく、それに新しい利用方法やコスト負担のあり方などをからめて提供していかなければならない点である。それが、新しいビジネスモデルの提示である。これは、もちろん、難しく、残念ながら、わが国の経済システムは、このような意味の新規創業を活発化させるような制度や仕組みを備えていない。
●このことは、新規産業は目に見える形になっていない(三陸地域総合研究センター/谷崎)、ITを使った新しい事業化は地域レベルでは難しい(大川)、新規創業に結びつくのかどうか心配であり新規企業の立ち上げが少ない(加納)という全般評価に現れている。
(1) 新規産業に係わる現状
以下で、現状をさらに分野別に整理する。
イ ITソフト供給産業については、地方でも少数ながらソフトウエア企業が生まれつつある(半沢、近村)。しかし、本当に数えるほどしかない(近村)状況である。
ウ IT利用産業については、ITは、遠隔地間の情報コストの低下などにより、地方企業の商圏を拡大させるが、商圏の拡大は、地方企業が特殊な少数ニーズに対応する専門化戦略を取ることを可能にする。この事例として、栃木ニコンが開発し、ショッピングモール楽天で直販したマニアックなユーザー向けの「テレスコマイクロ」(無限遠から至近距離まで連続的にピントを合わせることが可能な単眼鏡でカメラに装着可能。2000年日経優秀製品・サービス賞で優秀賞受賞)のケースがある(松本)。
●しかし、現在のところ、ニュービジネスなどは小規模であり、雇用の確保は容易でない(梶本)など、全体としては、地域経済や雇用に目に見える影響を及ぼす規模には至っていない。
次に新規産業の創出について考えられる対策を整理する。
●しかし、大学は、研究テーマや研究過程に様々な問題があり(半沢、21世紀ひょうご創造協会/浦上)、大学に任期制を導入すべき(浦上)という意見もあった。
●また、誘致したソニーから県立短大に映像関係のカリキュラム新設の要望が出ている(加納)ことや、岩手県立大学のソフトウエア情報学部の卒業生が地域にどのような影響を及ぼしていくかなど大学と企業の相互作用に期待もある(近村)。
イ 資金の提供や企業経営の様々な支援については、徳島県のニュービジネス協議会の懸賞制度などの活動事例が報告され、その結果として、徐々に自ら会社を興す人も徐々に増えてきている(梶本)事例がある。上記の@を含め、様々な支援システムが適切に機能するには、まとめる役割を担う人が必要である(赤塚)。