日本中央横断軸構想と情報連携について
21世紀の国土のグランドデザインでは、来るべき人口減少・高齢化時代や地球時代の到来を展望して、地域間の連携の重要性がうたわれているが、平成5年11月に設置された日本中央横断軸構想推進協議会(平成7年度に石川県能登地域を加え、現在、関係4県で構成)は、平成6年7月に、地方を主体とするものとしてはいち早く「日本中央横断軸構想」を取りまとめている。
この構想の対象地域には、民俗文化の宝庫とも言える飛越地域(富山県南部地方と岐阜県飛騨地方)があり、平成4年には、この地域を「日本の心のふるさと」としていくため、関係両県や市町村等が「日本の心のふるさとを守り育てる飛越協議会」を設立して、匠、まつり、味、語りべの4つの回廊づくりに向けて交流と連携を進めている。このような優れた連携の実績のある飛越地域をはじめ、能登、美濃、尾張、三河で構成される日本中央横断軸は、新しい地域連携軸のモデルとなるものとも考え、愛知、岐阜、富山、石川(能登)の4県等が協力して推進に努めているところである。
ここでは、このような日本中央横断軸構想の実現のための方策とその取り組みについて述べることにしたい。
1 広域的連携の価値
日本中央横断軸構想のような「広域的な」地域間の連携には、少なくとも次のような3つの価値がある。
その第一は、多様な地域間の異なった文化や産業の交流が交流することによる、地域の文化や産業の活性化の効果である。この地域には、太平洋沿岸から、日本海沿岸まで多様な文化や産業の集積がある。このような異質で多様な地域が交流し刺激し合うことの効果は大きいだろう。
第二は、各地域に存在する各種の資源や施設の広域的な利用の効果である。海に面する地域から山の地域、古い民俗文化を誇る地域から近代的な文化を誇る地域、大都市から田園地域などの各地域が持つ資源や施設を広域的に相互に利用し合えば、人々の豊かな生活が実現できるだろう。また、対外的には各地域の資源を活かした周遊的な観光ルートの形成も可能となろう。
第三は、異なった地理的環境の組み合わせを我が国や国際的な環境の中で活かす効果である。この地域は、環日本海交流圏に属する北陸と太平洋側の経済圏に属する中京大都市圏が日本の中央でそれぞれ東西日本を繋ぐ位置にある。この2つの地域が密接に結びつけば、我が国の国土構造形成や環日本海交流圏の活性化に重要な役割を果たすことが可能になるだろう。
2 日本中央横断軸の3つの機能
日本中央横断軸構想推進協議会では、このような広域的な連携の意義を踏まえて、次のような3つの機能を併せ持つ地域連携軸として、日本中央横断軸の形成を目指している。
(ア)「地域連携軸」機能
個性豊かな各地域が、文化・産業などさまざまな分野で交流連携を深めることにより、地域
の活性化と豊かな生活の実現を図る。
(イ)「国土再編(横断)軸」機能
日本の中央−日本の地理上及び人口上の重心地域−において、日本海国土軸と太平洋国土主
軸を結びつけ、国土全体に発展ポテンシャルを広げることにより国土の均衡ある発展に資する。
(ウ)「国際軸」機能
日本海側と太平洋側それぞれの国際交流拠点を連結し、環日本海経済圏と太平洋経済圏を結
びつけ、新たな国際経済圏・国際交流圏を形成する。
3 広域的連携実現の課題
日本中央横断軸構想推進協議会は、このような連携を実現するために、次のような「広域的な連携特有の2つの課題」の解決に取り組んでいきたいと考えている。
(1) 「時間距離」の短縮等(ハード)
その第一は、広大な地域間の交流連携のための時間距離の短縮である。一般に交流や連携に必要な時間が短ければ短いほど交流連携の密度は増すと考えられる。しかし、現在、この地域においては、日本海側の地域と太平洋側の地域を結ぶ高速交通網の整備が十分ではない。このため、時間距離を短縮するための社会資本の整備等を図っていく必要があると考えている。
(2) 「情報連携」の推進(ソフト)
第二に、地域間の交流連携を具体化するには、各地域が、他の地域のイベントや文化施設、観光資源、施策の方向などの各種の情報を共有しそれを活用していくことが極めて重要である。しかし、地域の広域性の故に、どこにどのような資源や施設が存在し、どのような政策や指向をもった地方公共団体等の団体が存在するかがわからないのである。それだけでなく、そのような随時変化する情報を密接に交換し合う手段もないことである。
日本中央横断軸構想の対象地域には、240余の市町村があるが、これらの多数の市町村がそれぞれ数百の相手方と、従来の会議、文書、FAXなどの方法によって、随時情報の交換を行うことは現実には困難である。
このような課題を解決し地域間の広域的な交流連携を活性化するため、日本中央横断軸構想推進協議会では「情報連携研究会」を設置し、インターネットやパソコン通信網などを活用してイベント情報などをはじめとする市町村間の情報の共有を進めるとともに、市町村の連携に係る協議や相談のネットワークの形成等を進める情報連携方策の研究を開始したところである。
4 おわりにー全国の地域連携軸推進組織の連携ー
おわりに、地域連携軸の推進に関係する立場から一言つけ加えたい。地域連携軸の形成を巡る現在の状況には、2つの問題があると考える。
その第一は、現在の地域連携軸の議論が、国、学者、シンクタンク主導であり、実際に地域連携を推進する立場で問題や現状をもっとも理解しているはずの「地域」の意見が出ていないことである。地域連携を推進するための共通課題を抽出し発言していく組織がないのである。また、
第二に、推進方策や課題などについては、各地域の事例が参考になることが多いと思われるが、その情報交換の場がないことである。
そこで、地域の立場から、地域連携軸形成のあり方について意見交換する場として、また、地域連携を推進するための情報交換の場として、まずは全国レベルの担当者の勉強会を開催することから始めてみればと考える。しかし、正直のところ、この仕事は、一つの県なりが背負うには荷が重い。地域間の連携に関心を持つ何らかの組織や団体が事務局になってもらえればよいのだがと考えている。
雑誌「地域づくり」(平成8年7月号)((財)地域活性化センター)
拙文集のページに戻る