はじめに
前回の基礎編では、IT革命を理解するための基本的視点を述べた。IT革命に関する雑誌や書籍の解説はITの技術的な可能性やメリット面が中心となっているが、それはいわば費用便益のうちの便益部分であり、費用面・コスト面の視点が不足している。起きている現象の説明だけでなく、変化のスピードや起きていないことの理由を把握するには、技術的な可能性を理解するだけでは不十分である。「コスト」を考えることによって、IT革命の経済や社会への影響のより明確な理解と予測が可能になる。
IT革命の業種や分野ごとの具体的な動向については、多くの書籍が出ており、雑誌等の解説も多い。ここでは、基礎編を踏まえて、さらにそれら(解説等)を理解するための視点を提示することを目標とする。
1 IT革命を制約する要因の整理
IT革命の影響範囲や変化のスピードを把握するには、IT(情報技術)の特性(IT革命の促進要因)を理解するだけでなく、その波及を制約する要因を把握する必要がある。それは、ITがあくまでも「情報」を対象とする技術である点と、「コスト」の2点を中心として理解することができる。以下では、この2つの視点に基づいて、IT革命の影響範囲や影響度を左右する要因を抽出する。
(1)ITが影響を及ぼす範囲は「情報」の処理にかかわる分野である
当然ながら「IT(情報技術)」が影響を及ぼす範囲は「情報」の処理分野である。すなわち、ITを使うことによってコストを大きく下げることができる分野で、IT革命が起きているのである。
従来、「情報処理」の対象分野とは大量の情報を処理する分野だった。ところが、IT機器やネットワークの急速な低価格化によって、コスト的に引き合う情報処理の範囲が飛躍的(たとえば数千倍(前号))に拡大している。一般論としては、様々な分野や活動ごとに「情報」の果たしている役割を把握すれば、その分野におけるIT革命の影響を把握できることになる。
(2)ITによる情報の非対称性の解消から
広範な業務へのITの適用はさまざまな効果を生んでいるが、ここでは、影響の大きい商取引について述べる。
商取引において、需要家側が完全な情報を持っていれば、自分のニーズにもっとも適合する取引相手が選択できるはずである。しかし、従来は、需要家側の情報は限定されざるをえなかった。情報を得るためのコストが大きすぎて十分な情報を得られなかったのである。いわゆる情報の非対称性である。この結果、需要家側にベストの取引が必ずしも行われていなかった。
この情報を取得するためのコストとは、実は取引コストの一部である。つまり、もし十分な情報を得ようとすれば、需要家側の取引コストが高くなりすぎるのである。しかし、ITによって情報が低コストで取得できるようになると、需要家側がより多くの情報を踏まえて取引相手を選択できるようになる。
ITは、まず需要家の取引環境に大きな影響を与える。この結果、供給側の競争は激化する。
(3)「情報のリッチネスとリーチ」論と取引コスト論から
しかし、情報取得にかかるコストの低下の影響は、需要家側のみにとどまらない。エバンスとウースターの『ネット資本主義の企業戦略』(1999)は、需要側・供給側の双方にとって、取引にかかわる「情報の『リッチネス』と『リーチ』」の間にある普遍的なトレードオフ関係がITによって解消に向かうという視点に基づいて、IT革命を分析している。取引の際には、その取引に関連する情報が豊富(リッチネス)であるほど、満足できる取引になるはずであるが、従来は、それを多数の取引相手(リーチ)や製品について実現することは困難だった。つまり、両者はトレードオフの関係にあった。それが、ITによって、多数の取引相手や商品についても豊富な情報を持つことが可能となる。
取引に関連する情報獲得に必要なコストは、取引コストの重要な一部であるから、これを取引コスト論の視点で整理してみよう。
取引コストは、1取引に必要な取引相手の信用や商品などの情報の取得に必要なコストと、2契約などの実務的なコストからなっている。ITは、取引相手や商品についての情報を幅広く収集、分析・管理する手段を提供するとともに、事務を効率化することで、程度に差はあれ、1、2いずれのコストも低下させる。その結果、豊富な情報を持ちつつ取引相手の範囲を大幅に拡大(リーチを拡大)することが可能になる。
すなわち、ITは、需要家側だけでなく供給者側の取引環境にも大きな影響を与える。
従来は、水準の高い濃密な顧客サービス(これには高い情報のリッチネスが必要)は相手方の数(リーチ)を制限することによってのみ可能だった。取引コストが高かったからである。その結果、高取引コスト業態から、取引コストを低くして対象者を広げる業態(セルフサービスのスーパー等)まで、様々な業態が存立している。しかし、ITによtって取引コスト(情報の取得コスト)が低くなり、情報のリッチネスが高いままリーチをのばすことが可能になると、上記の業態バリエーションは縮小方向への力を受けることになる。すなわち、ITによる取引コスト低下の程度が、主にこのトレードオフ関係変化の程度を決定づける。
(4)価格と取引コストの割合から
取引が、財やサービスの具体的な供給を必要とする限り、その財やサービスの特性は、IT革命の影響の範囲と程度を制約することになる。
IT革命による取引コスト(取引関連情報の取得コスト)の低減は、競争の激化をもたらすが、その影響は、財やサービスの価格に対する取引コストのウエイトによって異なる。
資源の希少性、加工コスト、生産能力、輸送コスト等によって、財やサービスの価格は異なる。この価格が低く取引コストのウエイトが大きい財やサービスがIT革命のより大きな影響を受けるのに対して、価格そのものが高い財やサービスのうち特に取引コストのウエイトが小さいものは、IT革命の影響も相対的に小さくなると考えることができる。
(5)取引コスト以外へのITの影響から
取引コスト関連以外の部分へのIT革命の影響の程度は、「情報」(表1参照)についてはネットワークによる供給の効率化が大きい。これに対して、「物品」においてのITの効果は、物流の効率化や製造の合理化などにとどまる。
この(5)に関する限り、全体として、 IT革命の影響が大きいのは、やはり情報関連の分野である。それは、IT自体が情報そのものの取扱いを目的とする技術だからであり、表1のように情報の供給上の制約が小さいことも原因である。しかし、その他の分野もやはり全体として大きな影響を受けつつある。
(注)音楽が、かっての人的なサービスから、レコードやCDなどの形で物品になり、さらに、ネットワーク配信によって「情報」としての特質を強めていくように、技術の発展は財やサービスの供給上の特性を変えていくのであり、現在の供給形態が将来にわたって継続していくと考えてはならない。そして、そのような変化の可能性のある部分こそ、新しいビジネスモデル形成の可能性のある分野である。
3 既存企業の対応の方向
まず、既存企業の対応の方向を
(1)情報の非対称性解消への対応
ITによって、取引に関する情報の取得が需要家側でも低コストで容易にできるようになると、供給者側の競争は激化する。以下では、主に製造業を中心にその対応を述べるが、基本的な考え方は、流通業や、最終需要家である消費者との取引にも適用できる。
(ア)コスト競争型企業について
対象分野の財・サービスに複数の供給者が存在する場合、開放性の高いインターネット上の取引が進展すれば、供給者間の競争が激しくなる。この結果、供給者やメーカー間の品質・納期・コスト・アフターサービス・その他顧客満足面の競争が激化し、生き残れる企業は、数が少なくなるだろう。このような「複数の」供給者のいる分野の企業とは、表2で「汎用品メーカー」として整理した企業であり、その対応策を例示すれば、表2のとおりである。
(注)需要家側にとって商品の価値が高く、需要家の数が多いのに供給能力に限りがある場合、供給者間の競争は緩和されることになる。しかし、現在のグローバル経済下では、多くの商品で供給が過剰である。また、商品が「情報」の場合は、生産が容易(コピーだけ)であるから、供給能力の限界はほとんどない。
(イ)研究開発型企業について
一方、対象となる財やサービスに供給者が1社しかないものがある。それは独占分野である。まったく新しいカテゴリーの新商品(財やサービス)、品質や特性に圧倒的な優位のある商品、特許などの知的所有権で守られている商品などである。このような商品を持つ企業は、競争の激化に無縁である。
しかし、多くの場合、時間の経過とともに新規参入があり競争がはじまる。あるいは、まったく別のカテゴリーの商品が、商品そのものの市場を消滅させてしまうかもしれない。
したがって、このカテゴリー分野で生きようとする企業は、不断の研究開発によって、新たな商品を開発したり、製造技術等の優位を常に確保していく必要がある。これは、研究開発型の企業である。
このような企業は、表2で「特殊品メーカー」として整理したものにあたる。その対応策として考えられる方向は表2のとおりである。
(注)ITの急速な発展と低価格化に伴って、様々な潜在的なニーズに応える製品やサービスの可能性が開けてきている。しかし、ITの急速な低価格化とそれに伴う普及のスピードに、製品開発やビジネスモデルが追いついていない。この結果、それを追求する研究開発型企業の活躍する場が飛躍的に広がっているのである。
その意味で、現在は、意志決定に時間のかかる大企業よりも中小規模の研究開発型企業に優位がある時代であるといえる。また同時に、研究開発の効率を高めるのに適したワークスタイルを持つ企業の優位が高まっている。大量生産大量販売型に効率的な組織やリーダーシップは、必ずしも開発の促進には適しない。
IT革命を原因とするこのような研究開発企業の優位は、少なくとも今後10年以上にわたって続き、この間に、世界の産業構造は以前とはかなり異なった形に再編成されることになると考える。まさに現在は、50_60年に一度の、景気の長期波動を生み出す技術革新の進む時期にあると考える。
(ウ)既存製造業の対応の整理
以上を踏まえると、既存産業である製造業企業のインターネット市場拡大への対応は、表3の3つの方向が考えられることになる。
IT革命の影響の大きい分野では、表3の3で生き残れる企業の数はわずかであり、十分ではないにしろ、むしろ1で生き残れる企業の方が多いとも考えられる。厳しい条件と限られた人的・物的資源の下では、保有、利用できる資源を前提に重点を絞るべきである。その「利用できる資源」は当然ながら必ずしも自社が保有する資源とは限らない。例えば、提携戦略が考えられる。
(2)ディスインターミディエーション対応
消費財において、メーカーから卸売業、小売業と続く体系に含まれるさまざまな業態は、生産された商品を最終需要者である消費者に届けるための体系である。当然ながら、それは、わが国の交通システムや製造企業の立地、消費者の地理的な分布あるいは消費者の価値観や行動のパターンに制約されて存在している。
生産者は、効率的な製造と調達・流通に適した工場立地や生産パターンをもち、工場ごとに少品目を大ロットで生産している。一方、消費者に近い小売業では、消費者の居住環境や生活形態、消費嗜好、消費・購買パターンに適合する形で店舗が立地し、多品種小ロットで商品が整理され店頭に並べられる必要がある。このため、その中間には、生産側で工場の配置等に沿い少品種大ロットで受け入れ、分散して立地する小売り側へ多品種小ロットの形に変換して供給する卸売業が機能しており、それに倉庫や運送などが絡み合う形になっている。サービスでも、大規模な供給システムを持つものは、ほぼ同様に考えることができる。
ディスインターミディエーション(中抜き)は、流通が持つこのような「変換」システムを、ITによって低コストで代替するシステムが開発されたときに起きると考えられる。
この分野でITの影響を個別に判断する際のIT促進要因と制約要因は次のとおりである。
促進側の要因は、1専門品、買回り品など品揃えが重視される商品については、その品揃え管理にITが効果を発揮する。たとえば書籍データベースである。また、2受注から発送にいたるまでの作業のIT技術による低コスト化が可能な商品はIT革命の影響を大きく受ける。
一方、制約側の要因では、1取引に伴う配送コストがある。商品の価格に対して配送コストが大きいものではIT革命の影響は限定される。再販制度下の書籍などはそうであると考えられる。2また、よく言われることであるが、個別性が高くて現物確認の必要性が高い商品も(ITを使っても必要な情報を得るコストは下がらないから)IT革命の影響は限定される。
(注)ただし、2については、評価方法の標準化や供給側の信頼性が確立されれば、ある程度は解消される。
以上の点を踏まえて対応を考えることになるが、いずれにしても、少なくとも中間的な流通業者は、視野を従来の取引範囲だけでなく、末端にまで(メーカーから消費者まで)広げて戦略を考える必要がある。その際には、需要家・消費者中心主義で考えればなにが既存の関係を壊すか、対応に何が必要かがわかるはずである。
3 新たな事業機会としてのインターネット革命
IT革命においても、経済や経営の本質が変わるわけではない。たとえば、分割が取りざたされているが、IT時代の最有力企業の一つと認識されているマイクロソフト社もオーソドックスな経営を行う企業である。
マイクロソフト自体は、確かに高い技術力を持った企業であるが、マイクロソフト自体が、独創的な製品カテゴリーを作り出したことは意外にもない。たとえば「インターネット・エクスプローラー」は、「ネットスケープ・ナビゲーター」あるいはその実質的な前身の「モザイク」を真似たものに過ぎないし、ワードやエクセルも他社の既存製品の機能を模倣し改良したものに過ぎない。また、ウインドウズは明らかにマッキントッシュを真似たものに過ぎないし、ウインドウズのベースであるMS_DOSも小さなソフトウエア会社が開発したものを買い取って改良してきたものである。この意味で、マイクロソフトは、日本企業の特色であるとされるオーソドックスな改良型の企業なのである。
さまざまなソフトウエアでマイクロソフトが優位にたてた理由は、かってはMS−DOS、今はウインドウズからの安定した収益を継続的に次の製品開発につぎ込めたことによる。
つまり、IT革命の時代においても、企業の成功は、よりすぐれた製品やサービスを開発し供給するためのコストをどこで調達し、いかに低コストで最終需要者、消費者に供給するかという問題に帰着するのである。
注)もちろん、これは、過去に開発された既存製品でキャッシュフローを稼ぎ、それを新製品の開発に投資する等の通常の企業活動の基本を言っているに過ぎない。
このような視点から、前回例示として掲げた7つの「低コスト実現手段」を元に、いくつかのビジネスモデルの可能性を整理してみよう。
以下で、最初の「コストダウン戦略」は、その名のとおり、「純粋にコストダウンを図る戦略」であり、それ以外は、「コストを分散する戦略」である。
(1) コストダウン戦略
これは、ITを活用したコストダウンによって、低コストの商品を提供する戦略である。前回では「1 原材料調達、物流などのコスト削減の新たな枠組み作りや研究開発、あるいは過剰品質・サービスの見直し等」が該当する。
では、どの部分でITの効果がもっとも高いのだろうか。ITを活用したコストダウンで効果の大きい分野は、一般的な傾向としては、(内部組織間や、流通でつながる企業間等の)組織間やシステム間の接続部分にある場合が多い。
組織間には情報流通の「壁」が存在することが多いからである。そのような壁を通過する際に、翻訳や解釈、意味の変換や調整、加工や転記などの様々な情報処理が行われざるを得ず、非効率と遅延が発生しやすい。
したがって、その壁を乗り越える統一的なシステムやネットワークを構築することでコストダウンや、処理や伝達時間の短縮が可能になる。
(注)なお、これは組織改革で可能になる場合も多い。
これは、他の目的のための(あるいは用途を限定しない)IT機器やネットワーク等のIT基盤や、情報などを複合的に(汎用的に)利用することによって、一つ一つの財やサービスの提供コストを低減(することによって急速な普及とシェアを獲得)しようとする戦略である。
これは前回で言えば、「3 複合サービスの一部として実施して各サービスあたりのコストを低減、あるいはほかのサービスに寄生」及び「4 既存のシステムや機器を利用して利用者の新たな負担を低減」が該当する。
IT機器や通信ネットワークは、インフラとして複合的な利用に適した特性を持っている。また、電子化された情報も複写・加工性が高いことから、複合利用に適した特性を持っている。いずれも使用に際して独占の必要性が低く、使用しても「減耗」しないからでもある。
ネットワーク自体を例にしてみよう。複合的な利用を行わない専用ネットワークでは、単一の業務だけでコストを回収する必要がある。この結果、専用ネットワークのコストが負担できるだけの業務は数が限定される。一方、インターネットは汎用的に様々な用途に使用される。このため、様々な業務がコストを分担することになり、一業務あたりの負担はきわめて小さくる。この結果、そのコストを負担できる業務数も膨大なものになる。
また、「情報」については、新聞や雑誌あるいは書籍編集等のコンピュータ化が進むことで情報のデジタル化が進んでいる。デジタル化された情報は複写・加工が容易になり、その再利用・提供をネットワーク上で行うことによって低コストのサービスが可能となっている。
この視点から、北陸の事例として、富山県内情報へのポータルサイトを目指す2つの事例を取り上げてみよう。
一つは民放テレビ局である富山テレビ放送(株)とタウン情報誌「タウン情報とやま」を発行している(株)シー・エー・ピーが共同で運営する「i-Toyama.com」である。ここに掲載されている情報は、タウン情報誌の掲載情報をベースにしている。つまり、これは情報を複合的に利用することによって、密度の高い情報を相対的に低コストで提供している例である。
一方、(株)トヤマデータセンターが運営する「富山情報ナビImpulse」は、基本的に富山県内の情報を提供するホームページに対するリンク集である。これも、外部で提供されている情報を検索しやすく整理して提供しているだけであるから、方法は異なるが、やはり低コストである。i-Toyama.comに対する富山情報ナビは、外部の情報に依存している分、既存のホームページ提供企業の数や店舗が少ない点で、情報量で劣ることになる。しかし、提供情報のカテゴリーの幅では優れているかもしれない。
(3)作業分担戦略
これは、ITによる自動化や通信ネットワークの双方向性などを活用して、コストを意識させない(軽い)共同作業を相手に分担してもらい、取引上のコストを低減させる戦略である。
これは、前回の例示で言えば、「2 利用者が作業の一部を分担」「5 片手間仕事を集めて製品やサービスを提供」などが該当する。
従来であれば、専門的な知識をもった職員が時間をかけて対応していた作業を、だれでもできるようなシステムを作ることによって、利用者自身が自分でできるようにすれば、大幅なコストダウンが可能になる。
(4)サービス価格への転嫁戦略
これは、ハードウエア製品の費用を、買い取りではなく、サービス利用料に転嫁し分割して負担してもらう戦略である。分割払い自体は、月賦やリースなどの形で以前から使われてきた。しかし、IT機器に関しては、性能の向上と価格低下のスピードが速いため、購入時点での価格が常に割高に見えるという認識が広く定着している。このため、ハードウエアの価格転嫁分を明示せずにサービス料の中に含めて負担してもらうものである。
これは前回では「6 ハード価格の一部をサービスの価格に含めて分割負担」が該当する。
この戦略のキーポイントは、機器に対して適切なサービスを組み合わせることである。携帯電話の例のほか、証券サービス利用やインターネットプロバイダー契約と、無料あるいは低価格パソコンの組み合わせなどが知られている。
(5)他事業者への負担転嫁戦略
これは、他の事業目的をもつ事業者にコストを分担してもらう戦略である(広い意味では、寄生戦略と同じである)。
これは、前回では、「7「広告」の導入その他」が該当する。広告以外では、会員組織などを作り高レベルのサービスを提供し、そのコストをマーケティングのためのアンケート調査費の経費としてまかなうものなどがある。
4 米国の動向を注視する
最後に、米国の動向を参考にするという話は、あまりに安直に聞こえるかもしれない。あるいは逆に当然と考える人も多いだろう。
既に激しい国際競争にさらされている製造業では、海外の動向に対する関心が高い。一方、そうではない3次産業等では関心は相対的に低い。そこで、どのような状況下で米国の動向を注視する価値が大きいかを整理しておきたい。
(1)地域特性論対発展段階論
地域間で起きている現象が違うとき、その原因を地域特性の違いに求めて解釈をうち切る視点を「地域特性論」と呼び、現象の相違を社会・経済・文化などの発展段階の違いに求める視点を「発展段階論」とすることにする。もちろん、片方のみが正しいということはない。問題は、地域特性論では、「米国ではこうなっている」に対して、意識的にあるいは無意識に「日本は条件が違うから米国の例を生かすのは難しい」として思考が終わってしまう傾向があることである。
一方、特に、「変化の方向」を知るときに発展段階論はきわめて有効である。変化の方向を把握した後で、それが北陸で具体的にどのようにいつ頃起こるのかを考えるときに、はじめて北陸特性論・特殊論を適用すべきである。
「東京は北陸の何年か後の姿だ」「アメリカは東京の何年か後の姿だ」と考えればよい。そのように考えるとビジネスのヒントが沢山ある。
(2)発展段階論の具体的な適用条件
しかし、発展段階論の有用性は、業種業態によって異なる。一般に「製品」は動かせるがノウハウは動かしにくい。製造業の作る製品は動かせるから、貿易を通じて国際競争にさらされやすい。その意味で日本の製造業は、既に世界レベルになっている。したがって、製造業への発展段階論の適用は限定されることになる。
これに対して、ノウハウ部分は動かしにくいから、先行する地域と遅れている地域で差が生じやすい。この結果、第3次産業は、他の地域にモデルがある場合が多いと考えるべきである。また、わが国では、市場の保護や規制も多かった。つまり、3次産業では、米国の動向を注視すると方向の判断がしやすい。これほど容易な予測方法・指針の発見方法があるだろうか。ある意味で北陸に立地するメリットである。
2 P.エバンス、T.S.ウースター『ネット資本主義の企業戦略』ダイヤモンド社、1999年
3 池田信夫『インターネット資本主義革命』NTT出版、1999年
4 米国商務省『デジタルエコノミー』東洋経済新報社、1999年
5 田坂広志『これから日本市場で何が起こるのか』東洋経済新報社、1999年
2 「富山情報ナビImpulse」http://www.impulse-navi.ne.jp/toyama/