お蔭様で、予定どおり『サイモン・アークの事件簿』の第三巻を出せたことで、改めて読者の皆様のご支援に感謝したい。
本書も作者エドワード・D・ホックの自薦作品を収録している。本書には前期の五〇年代から二編、後期の八〇年代から六編、合計八編を選んだ。最初から第三巻まで出す予定だったので、優劣がつかないように、年代や設定を考慮に入れて、三つに振り分けた。だから、第三巻が前二巻の残り物ではないことは、本書を読んでいただくとわかるはずである。
最近はコージー・ミステリーにも私立探偵小説にも、幽霊や狼男や吸血鬼が登場しても不思議ではなくなったし、むしろベストセラーになる例もある。古い例では、二十世紀初頭のイギリス人作家ウィリアム・ホープ・ホジスン(一八七七〜一九一八)が幽霊狩人カーナッキを創造した。カーナッキはゴーストハンターではなく、“ゴーストファインダー(幽霊探索人)”と呼ばれ、実際に幽霊を見つけて退治するときもあるし、超自然現象に見せかけた細工を見破って騒ぎの張本人を名指しするときもある。サイモン・アークも、カーナッキのように超常現象に直面するが、超自然現象に見える謎を論理的に解明するので、むしろG・K・チェスタトンのブラウン神父に近い。
サイモン・アークの私生活や過去については謎だらけだが、本書収録の「罪人に突き刺さった剣」でハデン神父がサイモンらしき人物の過去を“わたし”に語っている貴重な箇所があるので、謎の一端が明らかになるかもしれない。ちなみに、ホックはカトリック教徒であり、キリスト教や黒魔術に関する造詣が深かった。ホックと奥さんのパトリシアには子供がいなかったので、本シリーズにおけるワトスン役の“わたし”と妻シェリーと家族構成が同じだった。しかし、ホックは煙草を喫わなかったし、ビールも飲まなかったので、“わたし”とは嗜好が異なる。
じつは、ホックは短編集三巻分の作品しか選んでくれていない。それ以外にも訳者が好む作品があるので、第四巻は訳者が厳選した作品を集めてみるつもりである。作家自身の好みと読者兼訳者の好みがどう異なるのか比べていただくのも一興だろう。期待していただきたい。
最後に、いつもどおり、サイモン・アーク・シリーズのチェックリストを挙げておこう。
[註=完全チェックリストを見たい方は、現物の巻末を参照してください。]
二〇一一年十一月