ホーソーンもの第二短編集『サム・ホーソーンの事件簿2』の巻末に添えた「診断書(その2)」でも書いたとおり、ホーソーンもの第一短編集『サム・ホーソーンの事件簿1』に寄せられた作者エドワード・D・ホックの「序文」と「サム・ホーソーン医師の略歴」とマーヴィン・ラックマンの「事件年表」、そして、ホックのノンシリーズ短編集『夜はわが友』(いずれも創元推理文庫)に添えられたフランシス・M・ネヴィンズの「序文」を読んでいただくと、ホーソーンとホックについて、実際のところ、ほかに書くことはほとんどない。
本書は日本で独自に編纂されたサム・ホーソーンもの第三短編集である(ありがたいことに、「診断書(その2)」で抱いた願いが叶えられたのだろう)。本書では、二十五編目から三十六編目までを並べた。日本で二〇〇二年に訳出された第二短編集のほうは、『IN☆POCKET』(講談社文庫)主催の作家が選ぶ文庫翻訳ミステリーの部で同点第一位に、『2003本格ミステリー・ベスト10』(原書房)の海外部門で第五位に輝き、第一短編集と同様に、多くの実作者の方々にお誉めの言葉をいただいた。『サム・ホーソーンの事件簿I』の原書の出版元クリッペン&ランドルーの刊行予定リストを見ると、ホーソーンもの第二短編集 More Things Impossible: the Second Casebook of Dr. Sam Hawthorne が二〇〇五年に刊行されるらしいが、収録作品数は未定である。
本書にはホーソーンもの十二編のほかに、ノンシリーズ短編の「ナイルの猫」をボーナスとして付け加えた。この作品が不可能犯罪や密室殺人を扱っていないホワイダニットであることを前もって言っておかないと、苦情を申し立てる読者がいるかもしれない。ボーナス作品では、多才なホックの別の側面を紹介してみた。「ナイルの猫」の原題は The Nile Cat といって、《エラリー・クイーンズ・ミステリー・マガジン》一九六九年一月号に掲載され(同号にはホックのノンシリーズ短編 Murder Offstage と Every Fifth Man も掲載されている)、日本では『ミステリマガジン』七〇年一月号で訳載されたが(同号にはホックの「ゆすり」と「銃殺」も訳載されている)、本書では新訳を収めた。アメリカではエラリー・クイーン編の Ellery Queen's Grand Slam (1970) や、シンシア・マンスン編の Mystery Cats 3 (1995)、アビゲイル・ブラウニング編の Feline Felonies (2001) にも収録された。
ホーソーン医師の「近況」をお伝えすると、サム先生は一九四一年十二月にアナベル・クリスティーという美人獣医と結婚するが、翌日に真珠湾が攻撃され、新婚旅行を取り消すことになる(「巨大ノスリの謎」参照)。サム先生の看護婦エイプリルは三五年に結婚して、サムの診療所を一度はやめるが、二人目の看護婦メリー・ベストが四〇年に従軍看護婦として海軍に入隊したあとで、サム先生の看護婦として戻ってくるのだ。
「診断書(その2)」にも書いたように、ホーソーンものの面白い作品がまだまだ未訳のまま残っているので、第四短編集を出せるように、読者の皆さんからの盛大なご声援をいただければ嬉しい。すでにボーナス作品は決めてあるのだから。
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それでは、サム・ホーソーン医師の事件年表を更新しておこう。
サム・ホーソーン医師の回想話はすべて最初に《エラリー・クイーンズ・ミステリー・マガジン》(EQMM)に掲載された。事件が起こった日付は[]内に記されている。
[註=完全チェックリストを見たい方は、現物の巻末を参照してください。]
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最後に、エドワード・D・ホックの最新作品集リストを挙げておこう。
[作品集リスト]
1 The Judges of Hades (1971) オカルト探偵サイモン・アークもの中編五編収録
2 City of Brass (1971) アークもの中編三編収録
3 The Spy and the Thief (1971) 暗号解読専門家ジェフリー・ランドもの短編七編と怪盗ニック・ヴェルヴェットもの七編短編収録
4 Enter the Thief (1976) 『怪盗ニック登場』(早川ポケット→ハヤカワ文庫、日本で独自に編纂) 小鷹信光編、ヴェルヴェットもの短編十二編収録
5 The Thefts of Nick Velvet (1978) ヴェルヴェットもの短編十三編収録(限定版には十四編収録)
6 Hoch's Dozen (1978) 『ホックと13人の仲間たち』(早川ポケット、日本で独自に編纂) 木村二郎編、ホックの創造した十三のシリーズからそれぞれ一編ずつ十三編収録
7 The Thief Strikes Again (1979) 『怪盗ニックを盗め』(早川ポケット→ハヤカワ文庫、日本で独自に編纂) ヴェルヴェットもの短編十二編収録
8 Hoch's Locked Room (1981) 『密室への招待』(早川ポケット、日本で独自に編纂) ホックの密室ミステリー短編十二編収録
9 The Cases of Captain Leopold (1981) 『こちら殺人課!----レオポルド警部の事件簿』(講談社文庫、日本で独自に編纂) 風見潤編、レオポルド警部もの短編八編収録
10 The Adventures of the Thief (1983) 『怪盗ニックの事件簿』(早川ポケット→ハヤカワ文庫、日本で独自に編纂) ヴェルヴェットもの短編十編収録
11 The Quest of Simon Ark (1985) アークもの中短編九編収録
12 Leopold's Way (1985) レオポルド警部もの短編十九編収録
13 Tales of Espionage (1989) エレノア・サリヴァン&クリス・ドーバント共編、ホック作のランドもの短編八編とインターポルもの短編七編のほか、ロバート・エドワード・エッケルズ作のCIAもの短編八編と、ブライアン・ガーフィールド作のチャーリー・ダークもの短編八編も収録
14 The Spy Who Read Latin and Other Stories (1991) ランドもの短編五編収録
15 The Night My Friend: Stories of Crime and Suspense (1991)『夜はわが友』(創元推理文庫) フランシス・M・ネヴンズ・ジュニア編、ノンシリーズ短編二十二編収録(日本版からは「長い墜落」を削除)
16 Diagnosis: Impossible -- The Problems of Dr. Sam Hawthorne (1996)『サム・ホーソーンの事件簿1』(創元推理文庫) サム・ホーソーン医師もの短編十二編収録(日本版にはノンシリーズ短編「長い墜落」も併録)
17 The Ripper of Storyville and Other Ben Snow Tales (1997) 西部探偵ベン・スノウもの短編十四編収録(限定版にはほかにノンシリーズ短編一編も収録)
18 The Problem of the Leather Man and Other Stories (1999)『革服の男』(光文社文庫、日本で独自に編纂) 木村仁良編、『EQ』訳載のシリーズ作品を中心にした短編十二編収録
19 The Velvet Touch (2000) ヴェルヴェットもの短編十四編収録(限定版にはほかに詐欺師ユリシーズ・バードもの短編一編も収録)
20 The Old Spies Club and Other Intrigues of Rand (2001) ジェフリー・ランドもの短編十五編収録(限定版にはほかにアンソニー・サーカス名義の諜報員チャールズ・スペイサーもの短編一編も収録)
21 The Night People (2001) ノンシリーズ短編二〇編収録
22 Diagnosis: Impossible 2 -- More Problems of Dr. Sam Hawthorne (2002)『サム・ホーソーンの事件簿2』(創元推理文庫、日本で独自に編纂) サム・ホーソーン医師もの短編十二編とレオポルド警部もの短編「長方形の部屋」を収録
23 The Iron Angel and Other Tales of Michael Vlado (2002) ジプシー探偵ミハエル・ウラドもの短編収録
24 The Theif vs. the White Quenn (2004)『怪盗ニック対女怪盗サンドラ』(ハヤカワ文庫、日本で独自に編纂) ヴェルヴェットもの短編十編収録
25 Diagnosis: Impossible 3 -- Further Problems of Dr. Sam Hawthorne (2004)『サム・ホーソーンの事件簿3』(創元推理文庫、日本で独自に編纂) サム・ホーソーン医師もの短編十二編とノンシリーズ短編「ナイルの猫」を収録
26 Hoch's Ladies (2004) ホックの創り出した女性キャラクター三人(ナンシー・トレンティーノ刑事とボディーガードのリビー・ノールズと百貨店バイヤーのスーザン・ホルト)が活躍する短編収録
27 More Things Impossible: The Second Casebook of Dr. Sam Hawthorne (2005) サム・ホーソーン医師もの短編収録
[なお、作品集リストを作成するにあたり、前出の Edward D. Hoch Bibliography を参照させていただいた。]
二〇〇四年七月